瞼の裏には彼女の笑顔[1]
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すっかり梅雨が明けて、カラリとした暑い日が続くある日。
バニーの機嫌が、それはそれは最高にいい日があった。

いつも通り俺が遅刻してオフィスに入っても、返ってきたのは爽やかな笑顔。
嫌味のオンパレードを想像していた俺としては、鳩が豆鉄砲を喰らったような気分で。
わざわざ仕事の手を止めてコーヒーをいれてくれたバニーを、ぽかんと見つめることしか出来なかった。

そのあとも、書類が遅いだの始末書の誤字がどうのといった、恒例の小言は一切なく。
挙句の果てには、俺の溜まり溜まった書類の山を見て手伝いましょうか、なんて言い出した。
そんなことは、バディを組んで以来初めてのことで。
びっくりしている俺を余所に、バニーは鼻歌でも歌い出しそうな楽しげなオーラを振り撒いたまま、俺の数倍のスピードで書類を片付けてくれた。

バニーのおかげで昼前には書類仕事も終わり、コールも鳴らない平和な日だからと、昼食を摂りに行こうとすれば。
バニーが両手にペーパーバッグを持って帰って来た。

差し出されたそれは、最近話題のカフェで売られているべーグルだそうで。
一緒に食べましょう、なんて爽やかな笑顔が降ってきた。

行動の奇異さにますます違和感を覚えながらも受け取れば、中からはいい匂いが漂ってきて。
空腹を訴えた胃が、ぎゅるると鳴いた。
がさがさと、バニーに倣って紙袋を開く。
中からは、はみ出すほど大きな肉厚のチキンが挟まったべーグルが出てきた。
一緒に野菜も挟んである。
がぶりとかじりつけば、シュテルンビルトでは珍しい、ちょっと和風テイスト。
貴方が好きそうだと思って、というバニーの台詞がついてきた。

確かに好きな味だ。
だが、そろそろ何かがおかしい。
あ、コーヒーいれますね、なんて颯爽と立ち上がるその姿は、もはや不気味だった。

バニーの十八番が、営業スマイルだということは十分に分かっている。
カメラの前だと人格が変わるのだって、ヒーローの間では有名な話だ。
だが、今日のバニーは素の状態でこれなのだ。
取り繕ったり、営業用だったりではなく。
本気で、心底、ご機嫌なのだ。
それはもう、気味が悪いくらいに。

別に、親切にされたり世話を焼かれたりするのが嫌なわけではない。
むしろ、普段の口煩いかんじよりはずっといい。
だが、それに慣れてしまった俺としては、些か居心地が悪い。

一体何がそんなにバニーをご機嫌にしたのか。
まあ、心当たりは一つしかないのだが。

さすがに口を挟んでみたくなった俺は、ナプキンで口元を拭いてからバニーに話しかけた。


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