U-夢を見る-[1]ナマエ・ミョウジ、27歳
メカニックとメディカルに精通した技術者
以前はTopMaGに勤務していた
同社のヒーロー事業部撤退を受けて、アポロンメディア社に移籍
社内データベースで得られた情報は、たったのこれだけだった。
そもそも、なんでわざわざあの人のことを調べようと思ったのか。
自分でも全く分からなかったし、正直驚いていた。
これまでの人生、20年間、僕はひたすらウロボロスを追って生きてきた。
それ以外のことに興味はなかった。
ましてや赤の他人のことなんて、どうでもよかったのに。
どうしてか、あの人のことが妙に気になって。
もっと知りたいと、思った。
気がつけば、パソコンに向かって彼女の名前を打ち込んでいて。
だが、大した情報は載っていなかった。
分かったのは精々、彼女が僕より3つ年上だということと、おじさんとは長い付き合いらしいということくらいだった。
ランチを終えてオフィスに戻るべく、社内の長い通路を歩いていると。
角を曲がって前方から近づいてくる人影に、少し目を細めた。
白のTシャツ、タイトなジーパン。
ヒールの音に合わせて揺れるポニーテール。
薄いファイルを何冊か小脇に抱えて歩いて来るその姿は。
「ナマエさん」
まだ聞こえる距離じゃないと分かっていて、小さく呟いた。
向こうも僕に気づいたらしい。
「お、バニーちゃん!」
相変わらずな、その呼び名。
もう訂正する気も失せてしまった。
おじさんにそう呼ばれた時は、今でもちゃんとバーナビーだと反論しているけれども。
「ちょうどよかった」
お互いに距離を縮めた所で立ち止まり、ナマエさんがそう切り出した。
「バニーちゃん、後で手が空いた時でいいからメンテナンスルームに来てくれない?」
耳によく馴染む、アルトの声。
「こないだ話してた、跳躍時のブレの補正。だいぶいいかんじになったから、最後の微調整に協力してほしいんだ」
そう説明されて。
「ああ、わかりました」
頷けば、ナマエさんはよろしくね、と笑った。
綺麗な笑顔だと思った。
僕が今まで関わってきた女性はみんな、媚を売るような甘ったるいことばかり言って擦り寄ってきて。
もちろん仕事だから、その場では上手くやってきたつもりだが。
正直に言えば、そういうのはあまり好きではなくて。
煩わしくて仕方なかった。
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