独占したい瞳[3]
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僕の腕の中から抜け出したナマエは、再びキーボードを叩き始める。
その身体に、もう1度手を伸ばす勇気はなくて。
膝立ちのまま俯いて、ラグの毛並みをじっと見つめた。

カタカタと、乾いた音だけが響く。

ふと、視界が僅かに暗くなった気がして。
ゆるりと顔を上げれば、いつの間にかノートパソコンの電源が落ちていた。

不思議に思ったその時、初めてナマエが僕の方に身体ごと振り返って。

「お待たせ、バーニィ」

少し疲労を滲ませた顔に、柔らかな笑みを浮かべた。
そのまま、ナマエが僕の身体にもたれ掛かかってきて。
心地好い重みに、ようやく肩の力が抜けていくのを感じた。

「…お疲れ様です、ナマエ」

再びその身体を、緩く抱きしめる。
今度はちゃんと正面から。

逢いたかった。
ずっと、求めていた。
寂しくて、忙しいのに物足りなくて。
今ようやく、胸にぽっかりと空いた穴が埋まっていく。

「ね、バーニィ」

胸元から、ナマエの声。
いつもよりも甘えた調子。

「お風呂入りたいんだけどね、今1人で入ったら寝ちゃいそうだからさ」

だから、一緒に入ってくれない、と。
疲労と眠気を滲ませた、少し舌足らずな言葉。
身体がじわりと熱を帯びる。

「…喜んで」


きっと彼女は見抜いているのだろう。
寂しかったとも、逢いたかったとも。
仕事にまで嫉妬したことも。
僕は何一つ口にはしなかったけれど。
きっと全部分かっていて、その上での台詞。
敵わない、と思わされる。

さっきまであんなに落ち込んでいたはずなのに、ナマエの言動で一瞬にして浮上した心。
彼女は僕に甘やかしてもらっている振りをするけれど、実際甘やかされているのは僕の方で。
いつになっても変わらない、その関係。
悔しいようで、情けないようで。
でも、それが幸せだった。

彼女の身体を抱き上げて、そのままバスルームに。
恥ずかしそうに微笑むナマエが、ただ愛おしい。

「隅々まで洗ってあげますから、安心して下さい」

耳元に唇を寄せて、そう囁けば。

「変態」

素気なく返される。
それさえも、心地好い音。

「男はみんな、好きな女性の前では変態なんですよ」

諦めて下さい、と。
笑って、彼女が着ているブラウスのボタンに手を掛けた。


いつの間にか、寂しさはどこかに吹き飛んでいて。心は、幸せに満たされていた。



独占したい瞳
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