君とコーヒーを[3]ナマエ、
不意に、視線を巡らせたバーニィが。
私の姿を見つけて。
彼の口元が、私の名前の形に動いた。
そこでようやく、自分がずいぶん長い間立ち尽くしていたことに気づいて。
なんだか気恥ずかしくなる。
バーニィの座るテーブル席まで歩く、その間ずっと向けられる視線。
真っ直ぐ見つめ返すことができなくて。
「おはよう」
向かいの椅子に腰を下ろした。
「おはようございます」
視界の端で、バーニィがふわりと微笑む。
綺麗とか格好いいとか、そんな言葉ではとても形容しきれない姿。
「ナマエ?どうかしました?」
まだ眠いんですか、と心配されて。
慌てて首を振る。
なんだろう、らしくない。
普段は緊張なんてしないのに。
このシチュエーションが珍しいからだろうか。
「体調、悪いんですか?すみません、朝早くから来てもらって…」
私が何も言わない間に、バーニィがその沈黙をどんどんと悪い方向に解釈していく。
申し訳なさそうな口調に、否定しなければと思うのに。
言葉が出て来ない。
「ナマエ…?」
不安げな、声音。
その瞬間、はっとした。
何を不安にさせているんだと、自らを叱咤する。
ようやくちゃんと顔を上げて、バーニィの顔を真っ正面から見れば。
眉を下げて、恐々窺ってくる姿があって。
「あのね、」
何か言わなければ、と口を開く。
そうして飛び出した言葉に、自分でも驚いた。
「…なんか、惚れ直したなあ、って」
でも多分、バーニィの方が驚いていたと思う。
「…は?」
そう、短く聞き返したっきり。
黙り込んだバーニィの顔が、じわりじわりと赤みを帯びて。
ついには耳まで真っ赤になった。
「な、にを突然…」
しどろもどろに、言葉の真意を問い質してくる姿に。
あぁようやくいつも通りの彼だと、なぜだか安心して。
「ん?なんでもないよ」
軽く笑って、メニューの冊子に手を伸ばした。
「お勧めは?」
さっき見たボードに書かれていた店のお勧めは、クロックムッシュだったけれど。
どうせならば、バーニィのお勧めを食べてみたいと聞けば。
「ちょっと、はぐらかさないで下さい」
そう言い募られて。
朝陽に照らされたバーニィの姿が、なぜか無性に格好良く見えたなんて、絶対に教えてやるものかと。
手書きのメニューに視線を落とした。
そんな、いつもと少し違う、1日の始まり。
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