どうぞ穏やかな愛を[3]「懐かしいな…」
小さく、独り言ちる。
あの頃のバーニィは、本当に幼くて。
与えられることに不慣れだった。
受け止め方も、返し方も。
何もかも分からずに戸惑って。
感情や物事を、精一杯の力で真っ正面から受け入れていた。
一つ一つに、全力でぶつかる姿は不器用で愛しくて。
少しずつ成長していく彼を見守るのが、嬉しかった。
それは、今でも同じこと。
ヒーローとしても、1人の男としても。
彼はどんどんと立派になっていく。
そんなバーニィの隣りに立てることが、幸せだった。
とりあえず、今夜はロールキャベツに決まりだ。
キャベツをカゴに入れる。
あとは玉葱と挽き肉を買って、私は家路を急いだ。
ピピ、となった電子音。
ドアのロックが解除された音だ。
どうやらバーニィが帰って来たらしい。
鍋を温めていたIHの熱を、弱まで落として。
私はキッチンを出た。
玄関ホールへと続くドアが、熱を感知して開く。
「おかえり」
廊下の奥、見つけた姿に微笑んだ。
「ただいま帰りました」
見慣れた本革のジャケットとワークパンツ姿のバーニィが、私を見て笑みを零す。
バーニィはそのまま私に歩み寄って。
「ナイスタイミング。今ね、ちょうど晩ごはんが…」
出来たところだったんだ、と続くはずだった私の言葉は。
バーニィがおもむろに私の腰に腕を回して強く引き寄せたせいで、遮られた。
ぎゅう、と抱きしめられる。
伝わってくる、バーニィの体温だったり鼓動だったり。
「…ナマエの匂いだ」
首筋に当たる、バーニィの吐息。
耳元に零された呟き。
「甘えたさん」
くすりと、笑った。
外ではスマート、クール、インテリジェントを徹底させるバーニィが。
私の前では形無しだ。
甘えたで淋しがり屋ですぐ拗ねて、でもとっても柔らかく笑う。
そんな、素の姿を見せてくれる。
「会いたかったんです」
告げられる、飾らない言葉。
胸にすとん、と落ちてくる。
つい、甘やかしてしまいたくなるから、狡いと思う。
「うん、お疲れ様。今日も頑張ったね」
実際、本当に良くやっていると思う。
任務もトレーニングも、アイドル紛いの取材や撮影にも嫌な顔一つせず。
ちゃんと、KOHの座をキープし続けているのがいい証拠だ。
彼は、私の誇りだと、そう思う。
だから、たっぷり甘やかして。
彼が息を抜ける場所であるように。
こうして、帰りを待っていたい。
「晩ごはん、ロールキャベツだよ」
胸板に頬を押し付けたまま、メニューを教えれば。
頭上で彼が嬉しそうに笑う気配がした。
「すぐに着替えてきます」
そう言って、拘束が外される。
やはり相当好きなメニューらしい。
5分後に、美味しいと破顔するバーニィを想像しながら。
私は最後の仕上げのために、キッチンに向かった。
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