隠し味に愛を少々[2]
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キッチンに立つ。

ナマエの家は、ダイニングと対面式のカウンターキッチンになっているから、流し台の前に立つとダイニングからリビングまでが見通せる。
ダイニングテーブルと、椅子が2脚。
壁には洒落たアナログ時計が掛かっている。
リビングにはふかふかのソファとラグ。
ガラスのローテーブルには、今朝の新聞が乗っている。

ナマエが毎日生活する空間。
その場所で、料理をしながら彼女の帰りを待っている。
それは、なんだかひどく心地好くて。
擽ったい気持ちになる。

手始めに、ナマエと何度か行ったシルバーステージのスーパーで、仕事帰りに買ってきた食材を袋から取り出した。
鶏のモモ肉、にんじん、じゃがいも、ブロッコリー。
今日のメニューは、ホワイトシチューだ。
ナマエの作る、あの絶品なシチューには敵わないだろうけど。
寒い中帰って来るナマエに、温まってほしいから。

まな板と包丁を取り出して、鶏肉を一口大に切り始める。
ナマエに習った通りに。
そんなに手先が不器用なつもりはないのだが、やはりナマエのスムーズな動きは真似できなくて。
こればかりは、経験が物を言うのかもしれない。

次に、シチューに入れる野菜を洗う。
ナマエは包丁を使って器用に皮を剥くが、僕はピーラーを使わないと上手くいかない。
とん、とん、と幾分か不揃いで不格好に。
にんじんが小さくなっていく。

いつだったかナマエが、料理は楽しいと言っていたその気持ちが分かる気がした。
こんなふうに、好きな人に喜んでもらいたくて、下手だと分かっていても頑張ってしまう。
少しでも美味しくなるように、と願いを篭めて。

しばらくするとキッチンは、鶏肉の焼けるいい匂いでいっぱいになった。
焦がさないように気をつけながら、火を通していく。
次いで、野菜を投入。
その後別の鍋でクリームソースを作る。
レシピは、ナマエに教わった通りだ。
出来たら肉と野菜を合わせ、弱火でじっくり煮込む。
これで、しばらく見守るだけ。

手が空いて、のんびりと鍋を見つめる。
美味しく出来上がるといい。
ナマエが喜んでくれるといい。
仕事に疲れて帰ってくる彼女に、僕から精一杯の感謝を。

ナマエはいつも、僕と虎徹さんに最大の力を貸してくれるから。
最低限やらなければならない、仕事としての範囲なんて通り越して。
ありとあらゆる手を尽くしてくれる。

他人が聞けばほんの些細なことであっても、彼女はより良いものを、と考えてくれる。
可能な限り、リスクを少なく。
出来るだけ安全に、安心して戦えるように、と。
僕たちをサポートしてくれる。

それは、いくら感謝してもしきれないほど。


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