隠し味に愛を少々[3]
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シチューが出来上がった後、冷蔵庫に残っていた野菜で簡単なサラダを作った。
まだあまり手の込んだものは作れないから、レタスやキュウリを小さく切ったものとプチトマトをいくつか。
シチューの付け合わせに、バゲットを切っておく。
これで、あとはナマエが帰ってくるのを待つだけだ。

時刻は10時半。
あと1時間もすれば帰ってくるだろう。
僕はコーヒーをいれてリビングに戻り、ソファに腰を下ろした。

例えば、ナマエと結婚したら。
こんなかんじ、なのだろうか。
ぼんやりと、そんなことを考える。

同じ家で暮らして、いつもはナマエが僕の帰りを待っていてくれて。
たまには僕が夕食を作る。
毎日一緒に寝て、一緒に起きて。
そんな生活が、できるのだろうか。

一生傍にいることと結婚することは、多分意味が違うのだ。
家庭に恵まれなかったから、きっとナマエには結婚願望がない。
それを無理強いするつもりは毛頭ないけれど。
いつか、ナマエが僕と結婚したいと思ってくれたら。
その時は、彼女と一緒になりたいと思う。
幼い頃に失った家族を、もう一度ナマエと築いて。
今はまだ想像もつかないけれど、父親になってみたい。
そんな、遠い未来を想像する。


ちょうど、カップのコーヒーがなくなりかけた頃。
がちゃ、と鍵を回す音。
ナマエが帰ってきた。

リビングを出て、廊下を通って玄関に。

「おかえりなさい、ナマエ」

パンツスーツに、ベージュのトレンチコート。
首元のマフラーは、この間僕がナマエに似合うと思って買ってきたものだ。

「ただいま」

寒かったのだろう、頬を少し赤くしたナマエが、僕を見て嬉しそうに笑った。
それだけで、僕の胸はじわりと暖かくなる。

「夕食、できてますよ」

歩み寄って、肩に掛けられていた鞄を奪って。
冷えた身体を暖めるように、優しく抱きしめる。

「ほんとに?嬉しい、ありがとう」

僕の腕の中で、弾んだ声。
顔を覗き込めば、子どものように目を輝かせて。
期待に満ちた表情をするから。
くすり、と笑みが零れた。

普段は年上の女性、という感覚があるけれど。
たまにこうして、子どもっぽい一面を見せてくれる。
それが、とても好きだった。

「温め直して来ますから、先に着替えたらどうですか?」
「そうする、ありがと」

あとは、シチューが美味しければ完璧なのだが。
期待と不安を抱きつつ、僕はキッチンに行って再び鍋を火にかけた。


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