隠し味に愛を少々[1]
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僕とナマエとの間には、約束はしていないけれど恒例になっている決まりがいくつかある。

たとえば。
夜お互いの家に泊まる時は、先にお風呂から上がった方が寝る前のミルクを2人分用意する、とか。
コールが掛からなければ月曜日の昼休憩は2人で会社から出て、お気に入りのカフェでサンドイッチとラテを買ってテラスで食べる、とか。
そんな些細な、暗黙の了解。

最近になって、そこに新たな習慣が1つ加わった。

毎月5日は、僕がナマエの家で夕食の支度をすること。
今日でもう4回目になる。

5日、という日付にはちゃんとした訳があって。
毎月5日は、彼女が所属する開発部の定例会議があるのだ。
その会議というのが、なぜか毎回白熱して時間を大幅に超過するらしく。
普段、個人的な研究や残業がなければ夕方6時には帰宅するナマエが、会議の日だけは日付が変わる直前くらいまで帰って来ない。
それを知ったのは、半年ほど前のことだ。

そんな遅くから食事の支度をするのは、疲れているのに大変だろう、と。
知り合いの経営するレストランで持ち帰り用の夕食を用意してもらい、ナマエを出迎えたのが始まりだった。
その後、毎月5日は僕が夕食を作ってナマエの家で彼女の帰宅を待つのが当たり前になっている。

ナマエと出会うまで、僕は料理というものをしたことがなかった。
まさに未知の世界だった。
始めたきっかけは、ナマエと一緒にキッチンに立ってみたいと思ったから。

ナマエは料理上手で、味も手際も良い。
そんな彼女がキッチンに立っていると、傍にいても僕は邪魔にしかならなくて。
彼女が僕を邪険に扱う訳ではないが、どうせなら何か手伝いたい。

だが、僕には料理の知識が全くなくて。
ナマエに、教えてほしいと頼んでみた。
それ以降、僕は少しずつナマエに料理を習っている。

始めは、トーストの焼き方だったりスクランブルエッグの作り方だったり。
最近になってようやく上達してきたらしく、パスタやシチューなんかも作れるようになってきた。

勿論ナマエが作った方が美味しいし、僕の場合は時間も無駄に掛かるのだが。
だからこそ、たっぷり時間がある毎月5日に、僕はナマエのために料理をすることにした。

毎回彼女は、僕の大したことない料理をとても喜んでくれて。
美味しい、と食べてくれる。
その笑顔が見たいから。
僕はつい、気合いを入れて頑張ってしまうのだ。


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