どうか溢れんばかりの愛を[3]
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「手、離してもらえますか」

バニーは見事にナマエを黙殺して、スカイハイに告げる。
その口調は丁寧だが、声は地を這うような低さだった。

ぎぎ、と音を伴うような動きで、スカイハイがナマエの手を解放すると。
バニーはつかつかと歩み寄り、ナマエと向き合った。

「俺の目の前で、いい度胸ですね」

その、言葉に。

「俺?!」

ブルーローズが反応する。
多分、全員同じところに驚いていただろう。
俺も例外ではない。
バニーの一人称は僕だったはずだ。

「あー、ごめんバーニィ。違うんだって」

ナマエが、どうしたものかと苦笑い。

「何が違うんです?俺以外の男に触られるなんて、どういうつもりですか」

こいつが嫉妬深いのは知っていたが。
この反応は予想を上回っている。
ナマエも苦労してんなあ、と。
心の中で呟いた。

何を言っても無駄だと分かっているのか、ナマエが口を閉ざす。
その場は痛いほどの沈黙に包まれた。

「あー、バニー?まぁ、その辺にしてさ、」
「虎徹さんは黙っていて下さい」
「…はい」

全く、取り付く島もない。

「バーナビー君、すまない、僕が悪かったんだ」

自分が何をしでかしたのかようやく気づいたらしいスカイハイが、バニーに声を掛ける。
しでかした、というほどのことをした訳では決してないのだが。
相手が悪かった。

「実は気になる女の子がいてね。どうしていいのか分からなくて、ナマエさんに相談しようと思っていたんだ」

スカイハイが、そう説明する。

「…そうでしたか」

バニーの、複雑そうな表情。
その下の葛藤が、手に取るように分かった。

気になる女の子がいるということは、スカイハイにナマエとどうこうしようというつもりはない。
だが、そんなことを相談しようと思うほどにはナマエのことを信頼し心を開いている。
それは気に入らない。
そんなところだろう。

「じゃあ、こうしない?」

ようやく、ナマエが口を開いた。

「今夜、私とバーニィと一緒に飲みに行こう。それでどう、キース?」

ナマエが提示した打開策に、スカイハイが頷いて。
バニーも、渋々といった様子で了承した。

「決まりね。あ、バーニィ、これ新しいメニューだから」

ナマエは最後の1枚をバニーに手渡すと、用は済んだと出て行こうとして。
ふと、思い付いたように足を止めた。

少し背伸びをして、バニーの耳元に何かを囁くと。
今だに不機嫌そうな顔をしているバニーの頬に素早く口づけて、颯爽と部屋を後にした。

途端に、残されたバニーの頬が色づく。

上手ねえ、と。
ファイヤーエンブレムが呟いて。
皆が一斉に頷いた。

一見バニーがナマエを束縛しているように見えるのに、ナマエは上手く躱しながら、でもちゃんと応えて愛している。

バニーは、いい相手を見つけたなあ、と。
相棒の幸せそうな様子に、つられて笑った。




どうか溢れんばかりの愛を
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