どうか溢れんばかりの愛を[2]「忙しいのにごめんね」
ナマエはそう言って、一人一人に新しいメニューの書かれた紙を渡していく。
それぞれにちゃんと解説を付けながら。
ヒーローたちは頷きながらそれを聞いていた。
どうやら、この間の体力テストの結果を踏まえてのメニューらしい。
最後に俺に説明し終えてから、ナマエは手元に残った紙を見てあれ、と首を傾げた。
「バーニィは?」
その問いに、まだ来ていないと教えてやる。
バーニィ、それはナマエだけが呼ぶあいつの愛称。
この2人が付き合い始めた時から、ナマエはバニーをそう呼んでいる。
初めて皆の前でナマエがバーニィと呼んだ時の、あいつの嬉しそうな顔。
あれは忘れられない。
目を細めて、照れたようにはにかんで。
柔らかい声音で、はい、と振り返った。
それを見て、あぁこいつも幸せになれるんだと安心した。
「ナマエさん、ちょっといいだろうか」
不意に、スカイハイがナマエに声を掛けて。
ん、と振り向いたナマエに突然頭を下げた。
何事かと皆が見つめる中。
「実は君にどうしても相談したいことがあるんだ!今夜、付き合ってもらえないだろうか」
なんとも深刻そうな口調。
きょとんとしたナマエの手を、両手で握りしめて。
「頼む、そしてお願いだ!」
スカイハイは今にも抱き着きそうな勢いでナマエに迫る。
それに対して困り顔のナマエ。
見守っていた皆は、多分揃って同じことを考えていた。
さすが天然、と。
あのバニーと付き合っているナマエをどんな事情であれ誘うなんて、普通は考えない。
それくらい、バニーが嫉妬深いのは周知の事実なのだ。
バレたら面倒だなあ、と危惧したその時。
「一体何のつもりですか」
背後から掛けられた、冷ややかな声。
全員が振り返った。
そして青ざめた。
そこに立っていたのは、完全に無表情のバニーで。
なんてタイミングが悪いやつだと、心の中で毒づいた。
バニーの視線は真っ直ぐに、今だナマエの手を握りしめたままのスカイハイに向けられている。
その視線の冷たいことと言ったら、天然キャラのスカイハイでさえ何かがおかしいと気づくほどだ。
「えーっと、おはよ、バーニィ」
ナマエが、ひどく場違いな挨拶を投げた。
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