[24]優しき獣の激情
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R-18









性急に歯列を割って入り込んできた千景様の舌が、遠慮容赦なく咥内を掻き回す。
私がそれに気を取られている隙に、千景様は私の着物の衽に手を掛け、荒々しくそこを割り開いた。
それは、僅か一瞬のこと。
私の着物を乱した千景様が、帯すら解くことなく私の脚を強引に持ち上げる。
そして上体を屈めるなり、秘所を舌で舐めた。

「ひっ、ぁぁああっ」

予期せぬ刺激に嬌声を上げた私は、解放された両手で慌てて口を塞ぐ。
千景様は私の行動に何の興味も示さず、尖らせた舌をぐっと挿し込んできた。
こんな性急な行為は初めてで、私はされるがまま。
それでも、毎晩抱かれ続けた身体は着実に快楽を拾っていった。

私は、千景様との情交しか知らない。
だから、他がどうなのかは分からない。
でもきっと、千景様はいつもとても丁寧だった。
接吻から始まる前戯は長く優しく、身体の至る所を撫でて、至る所に唇を寄せてくれた。
気持ち良さに啼く私の髪を幾度も梳き、夜毎抱かれることによって快感を覚えてしまった私が早く欲しいと強請りたくなるほどゆっくりと、私の身体を溶かしてくれた。

だから今、私の中にあるのは紛れもない恐怖だ。

唾液と愛液で濡れたそこに、千景様の熱が押し付けられる。
抱かれ慣れた身体は、確かに反応していた。
だが、あまりの強引さに心が追い付かない。

「ぁ、あ、あああっ、や、ぁ……っ」

いつもよりもずっと強い圧迫感と共に、熱が押し込まれる。
腹を食い破られると錯覚するほど、私の心は怯えていた。
最初から全力で奥を突かれ、私の視界は一瞬で白く弾け飛ぶ。
壊れた人形のように揺さぶられる私の身体は、最早指の一本さえ自分の意思では動かせそうになかった。
はしたない水音と肌のぶつかる音、そして私の意味をなさない悲鳴が鼓膜を支配する。
千景様は何も言わなかった。
ぎらぎらと光る紅の瞳が獣のようで、私は恐怖に目を瞑る。
その拍子に、目尻から涙が零れて蟀谷を伝った。

抱かれることが嫌なわけではない。
千景様がそうしたいと言うのであれば、性急でも構わない。
それでも、こんな風に何の言葉もなく強引に身体を拓かれることは酷く恐ろしかった。

「………ナマエ、」

その時、急に腰の動きが止まり、長い沈黙を破って千景様の声が聞こえた。
私の名を呼ぶ声音が先程とは異なり優しいことに気付き、瞼をそっと持ち上げる。
するとそこには、いつも見慣れた千景様がいた。
瞳が行灯に照らされて柔らかく揺らめいている。

「千景、様……?」

恐る恐る確かめるように名を呼べば、千景様は右手を私の太腿から離し、そっと頬を撫でた。

「すまない、強引だった」

千景様が謝るという滅多にない出来事に、私は恐怖心も忘れて目を瞬かせる。
千景様もまたその自覚があるのか、ばつが悪そうな顔になる。

「赦せ」

そう言って、今度は労わるようにそっと口付けられた。
千景様の唇が私のそれを柔らかく食む。
何度も何度も音を立てて接吻され、唇が離れる頃にはすっかり絆されていた。

「まだ怒っているか?」

元々、怒っていたわけではない。
でももう、そういうことにしてしまおうと思う。

「……優しく、してくれたら、赦します」

そう返せば、千景様がふっと多めに息を吐き出して笑った。

「それでは強請っているようにしか聞こえんぞ」

もう一度、唇が重なる。
そして千景様は、先程までとは打って変わりゆっくりと腰を揺らした。
激しさは鳴りを潜め、優しく丁寧に擦り付けられる。
ゆったりとした抽送は、泡立った粘着質な音を却って際立たせた。
それが酷く恥ずかしい。

「ん、ぁ……っ、あ、」

いつもは徐々に強くなる刺激が、今宵は逆に、突然穏やかになってしまった。
それを望んだのは自分のはずなのに、乱暴に昂められた身体の芯が物足りなさを訴えている。
いつの間に、こんなはしたない身体になってしまったのだろうか。
無意識のうちに腰を揺らしかけ、私は慌てて自分の下腹部を手で押さえ付けた。
しかしそれはそれで、この中に千景様のものが入っているのだと強く意識することになってしまい、脳が沸騰する。

「ちかげさまぁ……っ」

私は思わず、助けを求めるようにその名を呼んだ。

「ん……?どうした」

応えをくれるその声が意地悪に響き、私は千景様に全てが筒抜けであることを理解する。
頬が発火しそうなほど熱くなった。

「物足りなかろう」

耳のすぐ側で、甘い低音が囁く。
素直に頷くのはあまりにも気恥ずかしくて、私は何も言えずに固まった。
くつくつと、千景様が喉の奥で笑う。
その間にも千景様はゆるゆると腰を揺らし、私が特に感じる場所を避けながら曖昧な刺激を与え続けた。
もどかしさで頭がおかしくなりそうだ。

「や、だ……、千景様、」

もっと欲しい。
でもそんなはしたないことはとても口に出来ない。

「さあ、どうしてほしい?我が妻よ」

私が本能と理性の間で葛藤するさまを、千景様は愉しげに見下ろした。
答えられない私に追い打ちをかけるかのごとく、千景様が指の腹で胸の頂きを擦る。

「ひぅ……っ」

硬くなった飾りを何度も刺激され、私はいよいよ耐えられなくなった。
もう何も考えられない。
ただひたすらに、気持ち良さのその先にある果てがほしい。
私の身体はもう、その存在を嫌というほど知ってしまっているのだ。
千景様に、教え込まれてしまった。

「もっと……っ、もっといっぱい、して、くださいっ」
「何をされたい?」
「ーーっ、ち、千景様に……っ、こわされたい……!」

私が正しく記憶しているのは、そこまでである。
その後のことは、酷く朧げだ。
ただ、私の答えに息を飲んだ千景様が、文字通り壊れるほど激しく私を抱いたことは間違いなかった。
骨が軋むほど強く腰を打ち付けられ、あっという間に絶頂を迎えた後も。
体勢を変え、何度も何度も繋がった。
途中から私の意識は半分なく、自分が何をして何を言ったのかも分からない。
過ぎた快楽はつらいばかりで、最後は泣きながら赦しを乞うたような気がする。
千景様はまるで獣のように、入りきらず溢れ返るほどの精を私の中に注ぎ込んだ。

「孕んでしまえ……っ!」

酷く曖昧な記憶の中で、千景様のその言葉だけが鮮明に焼き付いていた。



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