君が失った全てのもの[1]
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R-18




10月の最後の日。


世間はハロウィン一色だけれども、私はそれどころではなかった。
今日は、大切な恋人の25回目の誕生日なのだ。

付き合ってから、初めて迎える彼の誕生日。
私は今日という日をどう演出すればいいのか、随分迷った。
何せ、バーニィはちょっと普通とは違うのだ。

普通の25歳なら、私だって何も迷わなかった。
欲しいものをこっそりリサーチして、豪華なディナーとケーキを用意して。
それでよかったはずなのに。
バーニィにとってはきっと、それは正解ではない。

彼には圧倒的に、誕生日の経験が少なすぎるのだ。
4歳の時までは、両親が盛大に祝ってくれただろう。
だが、その記憶は些か幼すぎる。
事実バーニィも、4歳の誕生日しか覚えてないと言っていた。
そしてそれ以降、バーニィは誕生日を祝ってもらったことがない。
毎年、家政婦だったサマンサさんがパウンドケーキを贈ってくれただけだった、と。

去年ヒーローデビューして、相棒の虎徹さんがサプライズパーティを企画していたけれど。
結局は事件に巻き込まれて、それはなんともお粗末なものになってしまった。
今でこそ笑って話せるものの、バーニィにとっては苦々しい1日だっただろう。

つまりそう考えると、過去記憶にある限り、バーニィにとっての幸せな誕生日は1回しかなかったのだ。
そして私は、今日を2回目にしてあげたいと願っている。

だが、一体どうすればいいのか。
バーニィは、何を望んでいるのだろう。
悩んだ末に出した結論は、普通とはちょっと違った。

多分バーニィは、自分が主役のロマンチックなデートとか豪華なディナーとか、そういう特別には不慣れなはずだ。
そういうものを用意しても、きっと戸惑いや羞恥心が邪魔して、心の底から楽しむことはできないだろう。
だったら、いつも通りに。
でも、いつもより少しだけ甘く。
ただ一緒に過ごそうと、そう思った。

プレゼントもケーキもないなんて、他人から見れば薄情な恋人だろうけど。
それはまた来年でいい。
この先毎年、彼の誕生日はあるのだから。


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