[11]貴方と創る世界にキスを
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ベータケースによる第四種展開。
それは、石盤が破壊されて以降初めてのことだった。
相手はベータ・クラスのストレインが一名と、コモン・クラスのストレインが三名。
柴公園の敷地内でいくつかの施設が半壊するほど大暴れし、「出て来いや青服!」と騒いでいるそうだ。
つまるところ、暴動の続きというわけである。
交渉の余地なしと判断した宗像は、特務隊及び撃剣機動課第一、第二小隊に出動命令を下した。
久しぶりの大掛かりな任務である。
石盤が破壊され、ベータ・クラスのストレインなど存在しなくなったとのだと思っていたが、どうやら認識が甘かったらしい。
困ったものです、と独り言ちながら、宗像は指揮情報車を降りた。

「第一小隊は一般人の避難誘導を、第二小隊は大至急非常線を張れ!」

淡島が大声で指示を飛ばしている。
特務隊は、ストレインがいる広場の手前に集合していた。
ベータ・クラスが一、コモン・クラスが三。
かつてであれば、青の王がそこにいるというだけで特に問題のない案件になっただろう。
しかし生憎と今の宗像はもう王ではない。
宗像にも隊員たちにも残滓のような異能は残っているが、それは石盤があった頃と比較すれば微々たるものだ。
蓋然性偏差値という数字だけで言えば、宗像はベータ・クラスのストレインより劣っている。
以前の宗像は全てのストレインに対して優位に立っていたが、今はもう然に非ずだ。

「さて、正面衝突は避けたいところですが、」

慎重に作戦を練らねばならない、と宗像が周囲の状況を確認していると、背後に控えていた特務隊の面々がいつの間にか宗像の前にずらりと並んでいた。
十人分の青い背中。
何の気負いもなく広場に入って行こうとするので、流石の宗像も呼び止めざるを得ない。

「君達、その心意気は買いますが、少々無謀ではありませんか?」

隊員たちもまた、コモン・クラス以下の異能しか有していないのだ。
宗像が王であればサンクトゥムの庇護があるため力量差のある相手とも戦えたが、今はそれも出来ない。
そのようなこと、言われるまでもなく全員が理解しているはずである。
もう宗像には、人智を超える圧倒的な力で彼らを守ることは叶わないのだ。

「問題ありませんよ、室長」

しかし、肩越しに振り返った隊員たちの顔は自信に満ちていた。

「そうそう。俺ら、異能がなくても戦えるように実戦剣術めっちゃ特訓したんすから」
「もう、室長に命削って守ってもらうつもりなんてありませんからね」

昂然と晴れやかに、どこか得意げに、彼らは笑う。

「室長こそ、お下がりください。ここは我々が、」

挙句の果てには真面目に諌められ、宗像は思わず笑ってしまった。
ちらりと背後を振り返れば、淡島が平然と澄ました顔で隊員たちの背中を見ている。
淡島もまた彼らと同じ意見なのだと、言われずとも理解してしまった。

「……全く、困りますね」

それは、宗像の偽らざる本心だった。
あの日、鳳聖悟の前に立ちはだかった背は、また一段と頼もしくなった。

「本当に、困ったものです」

これでは、彼らの方が格好良いではないか。
宗像は列の右端に視線を送った。
調和が取れないほど華奢な背中を宗像に向け、真っ直ぐに立つナマエがいる。

話がしたい、と。
真正面からぶつかってくれた。
元々口下手で、言葉は苦手な子なのに。
宗像を理解しようと、精一杯按じてくれたのだろう。
人に理解されることはない、それは仕方のない当然のことだと決め付けていた宗像の諦めを、ナマエは溶かそうとしてくれた。
続きを、きちんと話したいと思った。
此度の出動で中断を余儀なくされたが、これで有耶無耶にしてしまわず、もう一度向き合いたい。
そのためにはまず、全員で生きて帰らなければならないのだ。

宗像は、不敵に笑んで一歩目を踏み出した。
そのまま隊員たちの間を抜け、誰よりも前に出る。
追随して来る淡島の気配を感じながら、宗像は隊員たちに背を向けて立ち止まった。

「剣をもって剣を制す。我らが大義に曇りなし」

その言葉の意味を、もう一度噛み締める。
そして、胸裡に落とし込む。
折れない理想を掲げ、世界を創るのだ。

「総員、抜刀!」

秋山、弁財、加茂、道明寺、榎本、布施、五島、日高、ミョウジ、伏見、そして淡島。
順に名乗って抜刀していく声を、宗像はそれぞれの顔を脳裏に浮かべながら聞いた。
全て、宗像が自ら選び揃えた隊員だ。
そしてきっと、彼らが各々の意思でこの場に立つことを選んでくれた。
背後に並んでいるであろう十一本のサーベルを、宗像は誇りに思った。


「宗像、抜刀」


隊員たちは、玲瓏たる声と共にゆっくりと引き抜かれたサーベルを見つめた。
かつて唯一の王と仰ぎ、今もなお絶対の長と認め、そしてこの先も共に在ると定めた存在。
見上げた空にダモクレスの剣がなくとも、見下ろした地にサンクトゥムの庇護がなくとも。

宗像礼司が、そこにいるのだ。

肩書きなど、彼らには関係なかった。
各々の胸に宗像の大義が息衝き、各々の目に青い背中が映る。
それだけで良かった。
付き従い、そして共に戦う理由は、それだけで充分だった。





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