この手を離さないside虎徹[2]
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ここ数日、バニーの機嫌がすこぶる悪い。

文字通り、最悪だ。
あいつがヒーローデビューした頃を彷彿させるハリネズミっぷり。
刺々しいオーラを出して周りに当たり散らし、突然情緒不安定になる。

そうなると当然、相棒の俺が手を焼く羽目に陥るわけで。
なんでこんな時に限っていないんだ、ナマエ、と。
バニーの恋人に、心の中で八つ当たり。

しかし、この状況を打破できる奴がいるとすれば、それはもうナマエしかありえない。
プロジェクトが忙しいのにと文句を言われる覚悟で、俺はナマエに電話をかけた。


"はい、もしもし?"

案の定、電話に出たナマエは早口で、忙しそうな雰囲気を滲ませていたから。
手短に用件を、と。

「よう、ナマエ。忙しいとこ悪いんだが、ちょっと聞いていいか?ここんとこバニーの機嫌が最悪なんだ、お前何か知ってたりするか?」

簡潔にそう問えば。

"…あぁ、"

ひどく冷めた声音が返ってきて、少しばかり驚いた。

ナマエは確かに、割と淡泊な性格だ。
そして重度のメカオタクだ。
俺がスーツに傷なんか付けた日には、烈火のごとく怒鳴り散らされる。
だがそれだって本当は俺を心配してのことだし、仕事中は男勝りで狂暴なナマエも、プライベートではそうでもない。
ちょっと素直じゃないだけで、本当は優しくて人の気持ちを大切に出来るいい女だ。

そのナマエが、こんな冷たい態度をとるなんて。

「あー…、もしかして」

嫌な予感しかしないとは、まさにこのことだ。

"今、喧嘩中なんです。だから私は何も知りません"

つっけんどんに、そう言い捨てられて。
つまるところ、それが原因なんだと悟った。

喧嘩して仲直りしないまま、ナマエが出張に行ってしまったという訳か。
それなら、バニーが不機嫌になるのも頷ける。
あいつは、見てるこっちが恥ずかしくなるくらいにナマエ一筋で溺愛しているのだ。

「珍しいじゃねーか、喧嘩なんて」

何が原因なのかと尋ねれば、ナマエは忘れたと答えた。

"些細なことだったんです。ただ、なんか熱くなっちゃって。大人げなかったかなあ"

そう言って苦笑いする姿が、電話越しでも容易に想像できたから。

「ま、色々あるとは思うけどな。頼むからどうにかしてくれ。あいつ、俺らじゃどうにもならないくらい荒れてるんだわ」

あいつも反省してるだろうし、と付け加えれば。

"帰ったらちゃんと話します"

ナマエはそう言って。
会議の時間だからと、一方的に電話を切った。

「…帰ったら、ねえ」

もう繋がっていない電話に向かって独り言つ。

ナマエが帰って来るまで、予定通りにいったとしても後3日はある。
正直、それまで今の状態が続くとこっちの精神が持たない。

そう判断した俺は、しょうがない、一肌脱ぐか、と。
携帯電話でバニーの番号をダイヤルした。


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