この手を離さないsideバニー[1]
bookmark


ナマエと、喧嘩をした。


原因はもう忘れてしまったが、たぶん些細なことだった。

僕が何か彼女の気に障ることを言ったのか、または彼女の軽口に僕が苛立ってしまったのか。
とにかく、初めて彼女と言い争った。

最初はお互いにちょっとした文句を並べていただけだったのに、いつの間にかヒートアップして。
最終的にナマエが、もう帰ると一言残して僕の家を後にした。

普段の僕なら、真夜中に彼女を1人で帰すなんて絶対にしなかったはずなのに。
その時は僕も頭に血が上っていて、勝手にして下さいと、乱暴に閉められたドアを冷たく睨みつけた。


翌日になって、すっかり冷静になると、急激に後悔が押し寄せてきて。
苛立ちはなくなっていた。

馬鹿なことをしたと、そう思った。
お互い、ちょっと大人げなかっただけで。
僕も悪かった。
あんな風に、彼女を傷つける言葉を吐くべきではなかった。
だから、ちゃんと謝ろうと。
出社して、朝一番にメンテナンスルームに向かった。

だが、そこにナマエの姿はなくて。
斉藤さんに尋ねれば。
ナマエちゃんはしばらく来ないよと、いつもの小声で告げられて。
驚いて、どういうことかと問い詰めた。

なんでも、今アポロンメディアとタイタンインダストリーが共同で行っている開発プロジェクトがあり、そのためにナマエは技術提供と会議への参加を兼ねてタイタンインダストリーに出張中だという。
期間は、今日から1週間。
だからしばらくアポロンメディアには出社してこない、と言われて。
僕は呆然と立ち竦むしかなかった。

だって、そんな話は知らなかったのだ。
プロジェクトの概要はナマエから随分前に聞いていたが、彼女の出張の話は初耳で。
大きなプロジェクトだと言っていたから、出張のことだってきっと以前から決まっていただろうに。
彼女は僕に一言も教えてくれなかった。
僕に何も言わずに、行くなんて。

もちろん同じ市内の会社で、すぐに顔を出せる距離ではあるのだが。
そういう問題ではない。

ナマエと僕は恋人同士であり、仕事上のパートナーでもある。
それなのに、黙って1人で決めてしまうなんて。
寂しさと腹立たしさが、同時に僕を襲った。

それが、すっかり消えかけていた昨夜の苛立ちに再び火を点けて。
絶対に僕から連絡するものか、と心に決めた。


prev|next

[Back]
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -