アイシテルの代わりに[6]
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シャワーを浴びて汗を流したいのだが、生憎その気力さえ沸かないナマエは、シーツの海に身を投じたままぼんやりと秋山を眺めた。
ティッシュで一通りの片付けを済ませてくれた秋山が、隣に横たわっている。
互いに裸のまま、床から引っ張り上げたコンフォーターの中だ。
片肘を立て、その上に頭を乗せた秋山は、もう一方の手でナマエの髪を弄っていた。

「それにしても、ちょっと意外だったな」
「何がです?」

セックスのあとのピロートークという、あまり経験のない状況に身を置いたナマエが、ぽつりと零す。

「なんか秋山って、もっと手順通り型通りの、お手本みたいにするイメージだった」

ナマエが思ったままを説明すると、秋山の顔が情けなく歪んだ。

「……え……っと、すみません。嫌、でしたよね。自分でも、まさかここまで抑えが利かなくなるとは思ってなくて……。あの、どこか痛みますか?」

申し訳なさそうに、心配そうに訊ねられ、ナマエは思わず苦笑い。
行為の激しさを思い返すと、まるで別人のようだった。

「秋山。別に、嫌だったわけでも怒ってるわけでもないから。ただ単に、勝手にイメージしてた印象とは違った、って話で」
「……そっちの方がよかった、と?」

なおも不安げに覗き込んでくる秋山に、ナマエは溜息を一つ。
どう頑張ればここまでマイナス思考に持ち込めるのか、ナマエには理解し難いものがあった。
多分こういう時も、持って回った言い方をせず、ストレートにぶつけた方がいいのだろう。

「んーん。秋山なら、何でもいい」
「………へ……?」

何とも間の抜けた声に、ナマエは噴き出す。
目を丸くして見つめてくる秋山の顔が、沸騰したように真っ赤に染まった。

「さっき言ったよ。全部見せて、って」

いつものように情けない姿でもいい。
部下に慕われ、特務隊を纏める役割を担う職務中の秋山はどこに行ったのかと疑問に思うほど、周章する姿でもいい。
出来れば多少改善されると嬉しいが、この際、苦笑するしかないほど泣く姿でもいい。

「だから、もっと見せてよ」

形振り構わずぶつかってきても。
欲を滲ませて余裕をなくし、必死になっても。
きっとそれが秋山である限り、ナマエは受け止められる気がしていた。

「……そんなことを言われたら、俺はもっと欲張りになってしまいます」

困ったように心中を吐露され、ナマエは目を細める。
シーツの上を滑らせた手を、そのまま秋山の頬に添えた。

「いいよ」

掌の下で、秋山が息を飲む。

「王様の剣である以上、私は君のものだ、なんてことは言えないけど。でも、少なくとも制服を脱いだ後なら、全部秋山にあげるから好きにすればいいよ」

頬から首筋をなぞり、素肌の胸板に触れる。
伝わってくる鼓動は驚くほど速かった。

「だから、もっと頂戴」

見開かれた左目に、柔らかく笑ったナマエが映る。
一拍置いて、秋山の腕がナマエを引き寄せ掻き抱いた。
まだ熱の余韻を残したままの素肌が触れ合う。
ナマエを抱き締める筋肉質な腕は力強いのに、少し震えていた。

「……愛しています。貴女を、貴女だけを、」

耳元に熱っぽく落とされる声に、嘘偽りがないと信じられる。
それはきっと、先に秋山がナマエを信じてくれたからなのだろう。

「うん、分かってるよ。……分かってるんだけどさ、……秋山?」
「……ぅ……、はい……」

ナマエは、太腿に当たった明らかに他とは異なる熱に眉を吊り上げた。
身体を離した秋山が、申し訳なさそうに縮こまる。

「なに、これ、若さ?」
「すみません……。……だって、」
「だって?」
「……ナマエさんが、もっと頂戴なんて、言うから」
「馬鹿。そういう意味じゃない」
「分かってますけどっ。……それは、分かってますけど、」

恨めしそうに訴えられ、ナマエは苦笑した。
別に、男の生理的反応をとやかく言うつもりは毛頭ない。
揶揄してみたが、本当は嬉しかった。
自分に欲情してくれることが、自分の言葉一つで理性を揺るがしてくれることが。
目の前の男に愛されているということが、ただ、嬉しかった。

「……ひもり、」

わざと、婀娜っぽい声を意識して囁く。
身体を揺らした秋山の、左耳の後ろを指先でなぞった。

「我儘、聞いてくれたらいいよ」
「……なん、ですか?」

すでに期待と情欲の篭った視線を向けられ、無理難題を押し付けてやろうかとも思った。
だが、我儘を聞いてもらえないとナマエも困るのだ。

「明日の朝は、オムレツがいい。トーストとサラダとカフェオレもセットで」

ナマエの身体の中心も、すでに新たな滴を零して秋山を求めているのだから。

「……必ず、」

秋山はまるで誓うようにしっかりと頷き、ふふ、と笑ったナマエの唇を性急に塞いだ。
優しいキスではない。
何もかも奪い尽くすような、激しいキスだった。






アイシテルの代わりに
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