アイシテルの代わりに[5]
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淫靡な水音と、激しく肌をぶつける音。
嬌声と呻き声、足りない酸素に喘ぐ唇。
身体を起こしてナマエの腰を掴み直した秋山は、先程までとは打って変わり激しく欲望を突き立てた。

「ひっ、ぁあ……っ、あ、あ、待……っ」

掴んだ腰に下肢をぶつけ、濡れた内壁を蹂躙していく秋山に、ナマエは意味を成さない声を上げ続けることしか許されない。
ナマエの手がシーツに皺を作る様子に、秋山はその手を自らの背中に導いた。

「爪、立てて下さい。俺が、貴女を、滅茶苦茶にした証を、下さい」

途切れ途切れに訴えられ、ナマエは失敗した苦笑に頬を歪め、言われた通りに秋山の背を掻き抱く。
それなりに痛いだろうに、秋山は嬉しそうに目を細めた。

「は、……っ、ぁ、……すみません、俺ばかり、」
「……ん、ぅ……っ、あ、……な、に……っ?」
「俺ばかり、気持ちよく、て……っ」

恍惚とした笑みに僅かばかりの苦痛を乗せ、秋山が呻吟するように吐き出す。
ナマエは、意地が悪い、と日頃の己を棚上げして秋山を睨んだ。

「ば、か……っ、ちゃん、と、きもちい……っ」

言下、ナマエの中で秋山の欲望が膨れ上がる。
息を詰めた秋山が、そのままナマエの好いところを擦った。

「ひぁあっ、も……っ、おっきく、しな、いで……!」
「ーーっ、これ以上、煽らないで、下さいっ、」

互いに、責任を押し付けるように愛を絡め合わせ、ぐちゃぐちゃに思惟を溶かしていく。
片手を上げた秋山が、鬱陶しいとばかりに自らの前髪を掻き上げた。
汗で髪が後ろに撫で付けられ、普段は隠された右目が姿を現わす。
熱と淫欲に溺れた双眸に真っ直ぐ貫かれ、ナマエは腰を震わせた。
隊の中では温厚、冷静と評され、ナマエの前では落ち込んだり焦ったり泣いたりと情けない姿ばかり晒す秋山が、まるで獣のように形振り構わず夢中で腰を打ち付けてくる。
端整な顔を歪めて腰を振る秋山の額から流れた汗すら、ナマエの目には官能的に映った。

「だ、め……っ、だめ、あきやまぁ……っ」

ナマエの声が滲む。

「名前、を……っ、ナマエさん、名前で呼んで、下さい……っ」

真上から懇願され、ナマエはその言葉の意図も碌に考えられないまま無意識のうちに従った。

「ひ、もり……っ、ぁ、あっ、あ、氷杜……っ」

譫言のように零した音に、秋山が泣き出しそうな顔で微笑む。
唇を噛み締めた秋山が、強く最奥を貫いた。

「あ、あっ、も、や……っ、ひもりぃ……っ、も、だめ……っ」
「……は、い……っ、俺も、保ちません、」

そう言うや否や、秋山はナマエの背中に腕を回すと勢いよくその身体を抱き上げた。
秋山を跨ぐ形でその上に座らされたナマエが、咄嗟にバランスを取ろうと秋山の背に縋り付く。
顔を上げた秋山が、快感に眉を寄せたまま嬉しそうに笑った。

「しっかり掴まってて、下さい、ね……っ」

その言葉と共に下から思い切り突き上げられ、ナマエは背中を撓らせる。
仰け反った首に、秋山が噛み付かんばかりの勢いで口付けた。
両脚に力の入らないナマエは自ら動くことも逃げることも叶わないまま、秋山に揺さぶられる。
見上げてくる視線に耐え兼ね、ナマエは秋山の頭を己の胸元に抱き寄せた。
唇に、秋山の髪が当たる。
汗とシャンプーと、微かな秋山の体臭が混ざり合った匂いは、ナマエを酩酊させるに十分な効果をもっていた。

「ひも、り、……っ、だめ、も、……っ、いき、そ……っ」
「……ぅ、……っく、……いって、下さい、……俺も、もう出そう、ですっ」

最後に、とばかりに抽送が一層激しくなる。
耳を塞ぎたくなるような粘着質な水音に混じって、秋山がナマエの名を呼んだ。

「愛して、ます……っ、貴女が、好きです、」

ナマエの膂力が緩んだところで顔を上げた秋山が、真っ直ぐにナマエを見つめる。
その双眸は、切なくなるほどの真摯な愛情に彩られていた。

「あ、ふ、……ンぁ……っ、ひ、もり……っ」

秋山の首に腕を回したナマエが、限界を訴えて頭を振る。
いく、と擦り切れた声を絞り出し、ナマエは絶頂へと押し上げられた。
背中が撓り、全身が一瞬で張り詰める。
秋山は、目の前に晒された汗ばんだ皮膚に噛み付きながら、ナマエの中で果てた。

強張った筋肉が、やがて一斉に弛緩する。
ナマエは必死で酸素を取り込みながら頭上を仰いた。
視界が真っ白なのは天井が白いせいか、それとも意識を飛ばしかけたからか。
思考を放棄したまま荒い呼吸だけを繰り返していると、不意に腰を掴んでいた秋山の腕が力強くナマエの背を抱き締めた。
そのままゆっくりと仰向けにシーツの上へと横たえられ、その動きに合わせるように中から秋山の熱芯が引き抜かれる。
埋まるものの失くなった中心が、寂しさに蠢いた。
それに気付かない振りをして、ナマエは優しく降り注ぐキスを受け止める。
瞼に、頬に、鼻梁に、そして唇に。
秋山は、労わるように何度も唇を落とした。
それが擽ったくて、ナマエは微かに笑う。
瞼を持ち上げると、少し照れ臭そうに微笑んだ秋山と視線が絡んだ。

「大丈夫ですか?」
「……ん、」

先ほどまでの獰猛さは白濁と共に全て吐き出してしまったのか、秋山の声音は常にも増して優しく甘い。
小さく頷けば、秋山は安堵したように目を細めた。
いつの間にか、後ろに流れていたはずの前髪が額に落ちていつものように右目を覆い隠している。
その奥に秘められていた熱情を思い出し、ナマエは僅かに燻った火種を抑えようと深く息を吸い込んだ。

「無理をさせてすみません。こんなはずじゃ、なかったんですけど……」

何とも情けない口調で零された言い訳に、ナマエは苦笑する。
確かに、想定外ではあった。

「ん、いいよ」

もちろん、体力にはそれなりの自信があったのだ。
だからこそ、今、指一本動かすことさえ億劫だという自分の身体が信じられない。
慈しむように髪を撫でる秋山の手を甘受しながら、ナマエは明日から少しトレーニングをしようかと、緩慢にしか動かない思考の片隅で思った。





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