アイシテルの代わりに[4]
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秋山の手が下肢に伸び、ナマエの脚からロングパンツを抜き取った。
ショーツ一枚になったナマエの肢体を見つめ、陶然とした表情を浮かべた秋山が、ナマエの太腿に手を掛けて脚の間に身体を滑り込ませる。
膝を立てたナマエの内腿に顔を寄せ、その肌に口付けた。
さほど肉付きのよくない太腿に、音を立てながら唇を押し付けていく。
そのキスは脹脛を経由し、やがて足の甲にまで及んだ。

「ばか、あきやま……っ、」

ついには親指を口に含まれ、ナマエは流石に脚を引こうとする。
しかし、足首を固定した秋山の手は思いの外強く、ナマエに逃げ場をくれなかった。
気持ち良さと擽ったさが入り混じり、背中が震える。
恍惚とした表情で舌先を蠢かす秋山を見て、ナマエはどうしようもない背徳感に身悶えた。
もう片方の脚で思い切り蹴り飛ばしたくなる。
しかし結局抵抗らしい抵抗は出来ず、秋山が満足して唇を離すまでナマエはされるがままだった。

「知っていますか?爪先は崇拝です」
「……キスの意味?」
「はい」
「……ほんと、馬鹿」

ナマエが零した感想に、秋山は苦笑した。
秋山が、身につけていた長袖のシャツを一気に脱ぎ捨てる。
それを下から眺め、着痩せするタイプだな、と思った。
服の上からだと細身に見えるが、実際は過不足のない均整のとれた鍛え方をしている。
ベルトの金具を外し、チノパンツから脚を引き抜く様子を見ていると、不意にその視線に気付いた秋山が照れたように眉根を寄せた。

「あまり見ないで下さい」
「自分は散々見ておいて?」
「それは……」

俺はいいんです、などという秋山らしくない暴論に、ナマエは笑う。
しばらく喉を鳴らしていると、拗ねたように唇を曲げた秋山がナマエの上に覆い被さった。
初めて、素肌が触れ合う。
ぴたりとくっ付いた肌の熱さは、ナマエに心地良さと興奮を同時に齎した。
しっとりとした皮膚の奥から、秋山の速い鼓動を感じる。
硬い筋肉が、ナマエに性の違いをまざまざと示していた。
ナマエの首筋に顔を埋めた秋山が、耳元ではあっと大きく呼気を漏らす。
そこに含まれた熱が、秋山の興奮を物語っていた。

「……あきやま?」

シーツとナマエの背中との間に腕を差し入れ、強く抱き締めたまま動かない秋山を訝しみ、その名を呼んだ。
次の瞬間、ナマエの太腿に押し付けられた熱量。
その正体を正しく理解し、ナマエは秋山の背に腕を回した。
熱く脈打つそれが欲しいのだと、言外に伝える。
僅かに膝を立てれば、秋山が小さく呻いた。
顔を上げた秋山が短くナマエの唇を吸い、上半身を起こす。
両手が、恭しささえ感じさせる所作でナマエのショーツを奪った。
そのまま身を屈めた秋山が、何の躊躇いも見せずにナマエの秘所に唇を寄せる。
熱い舌が這う感覚に、ナマエの唇から嬌声が漏れた。

「あ……っ、ん、ぅ……、ぁあ……っ」

既に濡れていたそこが、さらに秋山の唾液で潤いを増す。
舌と唇とで無心に愛撫を続ける秋山に翻弄され、ナマエは無意識のうちにその髪を弱々しく掴んだ。
やめてほしいのか続けてほしいのか、自分でも判別出来ない要求が言葉にならずに迸る。

「あ、……っ、き、……はぁ……っ、あ、」

しゃぶり尽くす勢いで舐められ、舌を中まで押し込まれ、思惟の奥が溶け始めた。
無意識のうちに、太腿で秋山の頭を挟み込む。
卑猥な水音と自らの嬌声が、露骨に響いた。

「あ、きやまぁ……っ、も、……っ、ぁ、ん」

ようやく声が意味のある単語になったその瞬間、呼ばれた秋山が顔を上げた。
唇を唾液やら淫液やらで濡らした秋山が、熱の篭った視線でナマエを貫く。
ナマエはヘッドボードの収納に手を突っ込み、探り当てた箱を掴んで秋山に差し出した。
一目でそれと分かる避妊具である。

「まあ、こういう時のために、と思って?」
「……すみません」

新品の箱を受け取った秋山が、情けなく眉を下げた。
今の今まで、完全に失念していたのだろう。
それだけナマエが、この責任感の強い男から理性を奪っていたということだ。
封を開ける秋山を見つめ、ナマエは微かに笑った。

「……大丈夫ですか?」

準備を整えた秋山が、熱芯の先端を泥濘に押し当てて不安げに問うてくる。
何を今更、とナマエは目を細めた。

「きて、」

端的に、一言。
一拍の間も置かず、ナマエの腰を掴んだ秋山がぐっと下肢を押し付けた。
慣らしきれていない内壁が、唐突に訪れた異物感に悲鳴を上げる。
しかし、ナマエはそれを顔には出さなかった。

「ひ、ぅ……ん、あ、あ……っ、」
「……く………ぅ……」

息を詰め、僅かに眉を顰めた秋山が少しずつ中に押し入ってくる。
痛みと圧迫感を強く認識した脳が本能的に腰を引こうとしたが、秋山はそれを許さなかった。
ナマエの腰を掴んだ手は決して乱暴ではないのに、動きを完全に封じ込める。
徐々に奥を目指して押し進められる熱芯が、濡れた内壁をじわりと広げた。
痛みなのか、快楽なのか。
互いに、どちらともつかない暴力的な刺激に耐えるように、顔を歪める。

「……あ、あ……っ、ぅ、ん……ン、」

噛み締めようとしたはずの唇から、抑え切れないくぐもった嬌声が断続的に漏れた。
やがて屹立がナマエの最奥に到達する。
下肢の肌が重なり、ナマエに身体が最後まで拓かれたことを伝えた。

「……は、ぁ……ナマエ、さん……っ」

息を乱し、呻き声を絞り出した秋山が、動きを止めてナマエを見下ろす。
見つめてくる眼睛は激しい淫欲と、しかし相反するような底抜けの情愛を浮かべていた。
上体を倒した秋山が、繋がったままナマエの身体を抱き締める。
先程よりも汗ばんだ肌が重なった。

「分かりますか?いま、貴女の中に、俺が」

耳元で、掠れた声が囁いた。
陶然とした響きが、ナマエの鼓膜を揺らす。

「ん、分かる。……あつい、」

ナマエは茹だった思考に浮かんだまま、熱に浮かされたような声で答えた。
耳元で秋山が息を詰める。
ナマエを抱き締めたまま、秋山がゆるりと腰を引いた。

「んっ、……ぁあ、あ……っ、ふ、…ぅ……っ」

引いた腰を押し込み、再度引いて。
ゆっくりと開始された抽送に、ナマエは秋山の背中にしがみついて耐えた。

「は……っ、ぁ……、すみ、ません。俺、かっこ、悪い、ですね……っ」
「ん、ん……っ、なに、……っ」

微かに漏れる呻くような音と荒い呼吸に混ぜ、秋山が情けない声を吐き出した。

「余裕……っ、なくて……すみま、せん。ーーっ、ぁ、……がっつかないように、しようって、思ってたんです、けどっ」

手をシーツについた秋山が、眉根を下げてナマエを見つめる。
額に汗が滲んでいた。

「あ、きやま……っ」

呼びかけたきり、与えられる快感に邪魔されて言葉を続けられなくなったナマエを見て、秋山が動きを若干緩やかなものへと変える。
ナマエは秋山の背中から首へと手を滑らせ、跳ねた後ろ髪に指を差し込んだ。

「そんなこと言う、余裕があるうちは、まだ、足りない」

そのまま、首に力を掛けて引き寄せる。
唇が触れ合う直前、秋山の目一杯に見開かれた片目が欲に騒めく様を確かめた。





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