生きていく理由を[3]「ごめんなさい、バーニィ。ほんとにごめん」
胸元に額を押し付けて、正直に白状する。
「カメラの性能を上げる開発をしてて集中しすぎて、気がついたらあの時間だったの」
そう言って、少し力の抜けた腕から身体を離す。
「心配かけて、ごめん」
そう言って、バーニィの顔を見上げた。
「…2度と、こんな思いはごめんです」
ひどくつらそうな表情で、見下ろされて。
「うん、2度としない」
そう、約束して。
迎えに来てくれてありがとうと、今度は私から軽いハグをすれば。
ようやくバーニィが微笑んでくれた。
「ほら、帰りますよ」
助手席のドアを開けられる。
「それにしても、貴女も相当慌ててたんですね」
走り出した車の中、くすりと笑われて。
意味が分からずに、バーニィの視線の先を辿って。
いつもはパンツスーツに着替えてから帰るのに今日は作業着のままでいることにようやく気づいて、思わず苦笑い。
ジーパンとTシャツのまま飛び出して来てしまったらしい。
「それどころじゃなかったんだもん」
唇を尖らせて答えれば、バーニィは嬉しそうに目を細めた。
その時、サイドブレーキの脇に置いてあるバーニィの携帯電話が鳴って。
液晶に、虎徹さんの名前が表情された。
「すみません、ナマエ。ちょっと出てもらっていいですか?」
そう言われて、ボタンを操作する。
「バニー、ナマエは見つかったか?」
まず耳に飛び込んで来た声に、この人まで心配させてしまったのかと苦笑した。
「もしもし、虎徹さん?ナマエです」
そう答えれば、電話口の向こうで彼が大きな息を吐き出した。
「お前、心配させんなよ。ナマエがどこにもいないって連絡が来て焦ったんだぞ」
少し怒った声で咎められて。
「ごめんなさい」
素直に謝った。
「ま、無事ならよかった。面白いバニーちゃんも知れたしな」
くつくつと楽しそうに喉を鳴らされて。
「なんですか、それ?」
興味を引かれ、尋ねれば。
「いやあ、なかなか面白かったぞ。突然電話が来て、ナマエがどこにいるか知りませんかって焦った声で聞かれて。バニーちゃんてば全然冷静じゃなくてよ」
虎徹さんは、その時を思い出しているのか、声に笑いが滲み出ている。
「ナマエに何かあったら生きていけませんって、お前愛されてるなあ」
そうからかわれて、頬が熱くなった。
ちらりと運転席を見れば、虎徹さんの声が聞こえているのだろう、バーニィも照れたように赤くなっていて。
「まあ、とにかく何もなくて良かったよ。じゃあまた明日な」
そう言って切れた電話。
バーニィと2人、顔を見合わせて。
どちらからともなく笑った。
次に信号が赤になったら、謝罪の気持ちを込めてキスをしよう、なんて。
そんなことを思いながら、私はフロントガラスの向こうの夜景を見つめた。
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