生きていく理由を[2]
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念のために言っておくが、決して忘れていた訳ではない。
だがカメラに集中しすぎて、時間の経過に全く気づかなかった。

私は手早くパソコンの電源を落とすと、鞄と携帯電話だけ引っつかんで研究室を飛び出した。

暗証キ―をロックして、メンテナンスルームを後にする。
足早にエレベーターホールへと向かいながら、携帯電話を右手に持ち替えて。
着信履歴の1番上を選択すると、そのまま発信。
1コール目も鳴り終わらないうちに、相手に繋がった。

「ナマエ?!」

大声を出され、耳がキーンと痛む。

「ナマエ、大丈夫なんですか!?今どこにいるんですか!?」

続けざまに、切羽詰まった声で問い質され。
その焦りように、さらに申し訳なさが募った。

「バーニィ、ごめん。私なら大丈夫だから、ちょっと落ち着いて」

このままでは話が進まない。

「今ね、まだ会社にいる」

とりあえず状況を説明すれば。

「…無事なんですね?」

ようやく、普通な音量で問われて。
相当な心配をかけていたことを知った。

「うん、電話ごめん。気づかなくて…」

静かになってようやく、電話の向こうから車の走る音が聞こえることに気づいた。
外にいるのだろうか。

バーニィは、大きな溜息を1つ吐き出すと。

「…迎えに行きます」

一言そう残して通話を切った。


会社のエントランスを出てみると、見慣れた赤い車にもたれ掛かって立つバーニィがいて。
小走りに駆け寄れば、そのままぐい、と手を引かれて。
バーニィの胸にダイブしていた。

「バー、ニィ?」

肺が潰れそうなほど、きつく抱きしめられて。

「俺が、どれだけ心配したか分かっているんですか…っ」

頭上から降ってきた悲痛な声に、息が詰まった。

「電話には出ない、メールも返ってこない。家にもバーにもいないし、虎徹さんに聞いても知らないと言われて。斉藤さんに聞けば、もう帰ったと言われて」

多分ずっと研究室にいたから、斉藤さんは私がいると知らなかったのだろう。
そんなことを思いながら、ただバーニィの胸に顔を埋めていた。

嗅ぎ慣れた、シトラスと汗の混じった匂い。

「貴女に何かあったのかと、生きた心地がしませんでした」

そう告げられて。
自分が何をしてしまったのか、今になって理解する。

確かに約束の時間から5時間も音信不通になれば、心配するのは当たり前だ。
ちゃんとアラームをかけるべきだったと、今さら後悔しても遅い。
仕事に集中すると他事に気づかなくなるのは、私の悪い癖だ。


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