生きていく理由を[1]
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スーツのマイクに内蔵されているカメラの画質が悪いからどうにかしてほしい、というリクエストをアニエスさんからもらったのは一昨日のことだった。

確かにあのカメラで映された映像は不鮮明だ。
あくまであれは記録用のカメラだから、さほど問題はないのだけど。
ヒーローTV側としては、カメラが潜入できない現場の映像を放送するために、もう少し質の良いカメラを取り付けてほしいということらしい。

言いたいことは良く分かったから、前向きに検討すると返事をしたのが昨日の話。


私は今、カメラに改良を加えるためにメンテナンスルームの奥の研究室でデスクにかじりついている。

簡単そうで、これがなかなか難しいのだ。

スーツに内蔵されているカメラということは、カメラ本体が激しく動くということで。
この動きは、世間一般の手ブレ補正などではとてもじゃないがカバーしきれない。
だから映像の質を上げようとすればするほど、コマ数の多さに動きがついてこなくなってフリーズを起こす。

どうしたものかと調整を繰り返すこと何百回。
パソコンに向かう目も肩も重くなってきたところで、溜息をひとつ。

1度休憩だと、椅子の上で上体を後ろに倒した。
ぱき、と腰が鳴る。

両手を上げて伸びをして、ふとデスクトップにデジタル表示された時計に目をやって。

「…え?」

目を疑った。

飛び込んできた数字は、23時56分。
なんとなく予想していた時刻との誤差はプラス6時間。

「やっばい…」

小さく呟いて、慌ててデスクの下の鞄から携帯電話を取り出した。
背面ディスプレイが着信があったことを知らせて光っている。
嫌な予感と共に二つ折りのそれを開いてみれば。
20件の着信履歴と、9件の未読メール。

背筋を冷や汗が伝った。
誰からかなんて、見なくても分かっている。
相手は全てバーニィだ。

19時から20分刻みの着信。
メールを1つずつ開けてみれば。

"ナマエ、まだですか?"
"いまどこにいるんですか?"
"ナマエ、電話に出て下さい"
"なにかあったんですか?"
"大丈夫ですか!?"

そんな文面がひたすら続いて。
あまりの申し訳なさに、胸がキリキリと痛んだ。

今夜仕事の後家に来ませんかと誘ってくれたのは、バーニィだった。
なんでも、珍しいウイスキーが手に入ったという。
バーニィはウイスキーを飲まない。
となると、それは私のために用意してくれたということで。

楽しみにしてる、と返事をしたのが今日の昼のことだった。


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