君の味方はここにいる[1]
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「ナマエの家族は、どんな人たちなんですか」


それは、他愛のない会話だった。

夜、僕の部屋でお酒を飲んでいて。
ふと気になったことを聞いただけだった。
だけど、その問いにナマエの顔が強張って。
そのまま黙り込んでしまったから。

「すみません…、聞かない方がよかったですか?」

触れてはいけない話題だったのだろうか。
僕には知られたくないのだろうか。
急に、申し訳なさと不安に襲われた。
すると、ナマエは慌てたように首を横に振って。

「あ、違うよ、ごめんね。…ただ、どこから話せばいいかと思ってさ」

そう言って、明らかに無理をして笑った。

「…そっち、行ってもいい?」

毛足の長いラグの上に座り込んでいたナマエが、ソファに座る僕の隣りを指差したから。

「もちろんです」

手を差し出した。
その手に掴まって立ち上がって、ナマエは僕の隣りに膝を抱えて座った。

「…私のお父さんはね、多分アルコール中毒だったんだと思う」

静かな口調で話し始めたナマエの横顔を、僕は黙って見つめた。

「いつも酔っ払ってて、すごく暴力的だった。
小さい頃からずっと、虐待されてた。真冬にベランダに閉じ込められたり、お風呂に沈められたり。
顔に煙草押し付けられたり、殴られたり蹴られたり。
その時は痛いとか苦しいとかしか分からなかったけど、今思えば何回も殺されそうになったんだと思う。
あれは私が10歳くらいの時だったかな、突然いなくなって。
それから1回も会ったことないから、今生きてるのかは分からないけど」

淡々としたその告白に、返す言葉なんて見つからなかった。

「お母さんは鬱病になっちゃってね、お父さんがいなくなった2年後くらいに私の目の前で飛び降り自殺。
私は1人になって、家もご飯もなくて。
物乞いして、ゴミを漁って万引きして、外に段ボール敷いて寝てた。
もう少し大人になってからは、身体を売って、男と寝てお金をもらって、それで生活して。
18歳の時に、TopMaGの開発部の人にたまたま出会って、そのまま入社するまでは、ずっとそんなかんじだった」

想像を絶する、とでも言うのだろうか。
その壮絶な生き様。

「…汚いって思われるかなって思うとさ、なかなか言えなかったんだ、ごめんね」

そう言って、ナマエは寂しそうに笑ったから。
僕の中で、何かが音を立てて切れた。

「…誰かが、そう言ったんですか」

怒りで、声が震えた。

「…え?」

ずっと逸らされていたナマエの視線が、僕の顔を見つめる。

「貴女のことを汚いと、誰が言ったんですか」


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