いつの日もこの唄を[2]「バニーちゃんの好きなもの作ってあげるから」
「誰がバニーちゃんですか」
「怒んないの。ほら、何がいい?」
「…ハンバーグがいいです」
「オッケー、ハンバーグね。ほら、作ってくるから離してよ」
「嫌です」
「…バーニィ、振り出しに戻ってるって」
「ナマエはそんなに僕から離れたいんですか?」
「そんなこと、ひとっことも言ってないでしょう?」
「…だったら、どうして」
「バーニィ、話聞いてた?」
「どうして貴女は、僕を置いて行こうとするんですか…」
押し問答の最後、いやに悲痛な声で詰問されて。
思わず黙り込んだ。
そんな風に思っていたのか、と。
「…そんなことしないよ、バーニィ」
これ以上の喪失を知る必要なんてない。
そんな思いはさせない。
「私は絶対に、この手を離さない」
身体を捻って、真っ正面からバーニィを見つめる。
揺れる翡翠の瞳を覗き込んで。
「バーニィが、しつこいですって言っても傍にいる」
だから怖がらないで。
逃げないで。
ちゃんと見ていて。
私はここに、いるから。
「…ナマエ、あの、キス、してもいいですか?」
目の前で、そんなことを聞かれて。
バーニィの真っ赤になった頬に、つい笑ってしまった。
うん、と頷けば。
ゆっくりと距離がゼロになる。
唇に、微かに触れた温もり。
それはほんの一瞬で、目を開ければそこにはついに耳まで赤く染めて視線を逸らすバーニィの姿があって。
ファーストキス、だったのだろうか。
初な反応が可愛くて、でもあんまり見てたら可哀相だろうと、胸に顔を埋めた。
そうすれば、背中に回される逞しい腕。
バーニィの心臓の音はとても速くて。
なぜかそれに安心した。
こうやって、1つずつ経験して。
言葉を重ねて、信じ合って。
そうして前に進めばいい。
「よし、やりますか!」
顔を上げて、ソファから立ち上がって。
バーニィに手を差し延べる。
「…なにをですか?」
きょとん、と首を傾げられて。
「ほんっとーに話聞いてないよね。ハンバーグ、食べたいんでしょ?」
手伝ってよ、と。
そう言えば、バーニィはひどく嬉しそうに頷いた。
きっと碌に料理なんか出来なくて、手伝いにはならないだろうから、本当にやらせる気はないけれど。
でも、一緒にキッチンに立つ。
それだって経験だ。
いつだって、時間の許す限り傍にいよう。
彼の隣りでたくさん笑おう。
きっと、それでいいはずだ。
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