[13]築き上げた信頼
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宗像は立ち止まり、手元のタンマツと目の前に伸びる廊下とを見比べた。
後ろからは、日高と五島が着いて来ている。
ブーツの音を最小限に抑え、周囲を警戒しながら少しずつ前進した。

今回の作戦では、チームを四つに分けている。
宗像、日高、五島でAチーム、淡島、加茂、道明寺でBチーム、伏見、秋山、弁財でCチーム。
この三チームを突入部隊とし、ナマエと布施、榎本が情報車に残っている。
作戦の鍵は、施設スタッフに気付かれることなくストレインを救出することだ。
監禁されているストレインさえ確保出来てしまえば、後は強行突破。
この時間帯、製薬会社の正規社員がいないことはナマエが保証している。
問題は、王を作り出す研究をしている研究者たちだ。

この施設は、製薬会社としての建物の奥に研究施設が隠されている。
その境目となるセキュリティゲートの前に到達した宗像は、再びタンマツに視線を落とした。
Bチームが裏口を固め、Cチームが宗像の後方に控えている。
GPSで全員が配置に就いていることを確かめ、宗像はタンマツの"ロック解除"をタップした。
指示が情報車に飛び、ナマエがセキュリティゲートを解除する。
午前中、施設のイントラネットにクラッキングし、ゲートパスとストレインの人数を確認したのはナマエ本人だ。
宗像の視線の先で、ゲートが開いた。

宗像は後方に合図をし、慎重にゲートを潜り抜ける。
問題なさそうだ、と数歩進んだところで、宗像は目を瞠った。
先ほどまで施設のマップと各隊員の位置を表示していたタンマツの液晶が、不意に真っ黒になったのだ。
電源を入れ直そうとしても、全く反応しない。
背後を振り返って日高と五島に確認すれば、二人のタンマツも同じ状態だった。

「ミョウジ君、聞こえますか」

宗像は、制服の襟に仕込んでおいた無線マイクを口元に近付け、情報車に呼び掛けてみる。
だが、応答はなかった。
電波暗室か。
宗像は手で合図し、ゲートの外に出た。

外に出てみると、タンマツが復活する。
左上に情報車からの緊急コールが入ったサインが光っており、ナマエもこちらの位置を見失っていたことを知った。
無線でナマエにゲートを閉めるよう指示すると、今度は声が返ってくる。

「総員、一旦退避します。情報車へ」

宗像は全員にそう告げ、建物を抜けて情報車に戻った。




「電波暗室、ですか」
「はい。もしくは、特定の機器以外を使用不可とするものでしょう。ゲートを潜り抜けたところから、タンマツも無線も使い物になりませんでした」

Bチームを見張りに立て、宗像は情報車で作戦の立て直しを図る。
宗像の報告を聞いたナマエは、難しい顔をして考え込んだ。

「……恐らく、後者です。施設内で電子機器は使用しているので、妨害電波か何かかもしれません」
「なるほど。これは困りましたね」

情報車からのデータ及び、各チーム間の連携が取れないと、この作戦は難しい。
無線連絡すら使用出来ないとなると、タイミングを合わせることも不可能だ。

「……今夜は中止、出来ますか。もう一度アクセスし、妨害電波の出処を確かめます。それを気付かれずに止めることが出来れば、」

ナマエがそこまで言ったところで、不意に外から爆発音が響いた。

『室長!施設にて爆発を確認!』

淡島の声が無線に飛んできて、宗像は情報車の外を見やった。
なるほど確かに、施設の一角が吹き飛び、コンクリート片が降っている。

「気付かれた?!」
「…いえ、これは恐らく、ストレインの暴走です」

日高の叫び声に、ナマエが答えた。
意図せずとはいえ、ナマエは同じ方法でここから逃れたのだ。
タイミングが悪い、としか言いようがなかった。

「……なるほど。これではもう、後に引けなくなってしまいましたね」

情報車の外に降り立った宗像が、建物を見上げて思案する。
振り返ると、ナマエが小さく頷いた。

「作戦を切り替えます。暴走したストレインの確保を最優先に、その次に他のストレインを保護。そのどちらもが完了し次第、施設関係者を捕縛します。総員抜刀!」

宗像の号令に、隊員たちがサーベルを引き抜く。
そのまま、再び施設内へと駆け出した。

ナマエは情報車に戻り、キーボードに指を走らせる。
この騒動を利用しない手はない。
施設のイントラネットにアクセスし、妨害電波の出処を探った。
痕跡を残さないよう留意して一時的に遮断、などというまどろっこしい手順を踏む必要はない。
爆発で壊れました、で話は片付くのだ。
施設から派手な破壊音が聞こえてきて、どうやら日高辺りが派手に暴れているらしいと察した。
セキュリティゲートのロックを、予め解除しておく。

『暴走したストレインが施設を脱走!追いかけます!』

秋山の声に、ナマエはモニターを確認する。

「秋山さん。出口を封鎖しました、ここに追い込んで下さい」

マイクに指示を吹き込みながら、マップの一点に印をつける。
了解、と応答があった。

「榎本さん、布施さん。ここは、大丈夫です。応援に」

二人が頷き、サーベルを手に情報車を出て行く。
目まぐるしく動くモニター上の点を追いながら、同時に施設のイントラネットを探った。
すでにモニター上に宗像と伏見、道明寺の位置情報がない。
恐らくもうゲートを潜り抜けた後だろう。

『暴走したストレインを確保!』

秋山の報告を聞きながら、ナマエは早々に妨害電波の発信源を特定した。
物理的に破壊するしかないと判断し、淡島に指示を出す。
数分後、ゲート内にいる隊員の位置情報がマップ上に表示された。

「こちらミョウジ。室長、聞こえますか?」
『こちら宗像。お見事ですね、ミョウジ君』

とても現場の最前線に立っているとは思えない声音で、宗像がナマエを褒める。
ナマエは小さく苦笑した。

「妨害電波の発信源を破壊しました。暴走したストレインは確保完了。そちらの状況は?」
『ストレインを二人保護しました。あと一人ですね』
「施設スタッフは?」
『未確認です』

宗像の応答に、ナマエは思考を巡らせた。
スタッフは当然、ストレインの暴走に気付いただろう。
恐らく、脱走を阻止しようとするはずだ。
暴走したストレインを追ってきたのならば、今頃秋山がその姿を確認しているだろう。
しかしその報告がないということは、スタッフは未だ施設内に留まっている。
もしくは、逃げ出すつもり、か。

『最後のストレインを保護しました!』

弁財の報告に、ナマエは即座に反応した。

「非常通用口の封鎖を。ここです」

マップにチェックをつける。
それぞれの応答を聞きながら、ナマエは手首に巻いた青いリボンで髪を一纏めに結んだ。
立ち上がり、左手をサーベルの柄にかける。

ストレインの確保が完了すれば、あとは制圧するのみ、だ。




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