いつかその日が来たならば[1]
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王は、疲れないのですよ。


その男は、まるで息をするかのごとく自然に、何の衒いもなく王を語った。
ミョウジは、宗像礼司という男が王の鎧を纏う姿が嫌いだった。
中身が鎧に同調し、男が本来の姿を失くしていく様をただ見ていることしか出来ない自分が、もっと嫌いだった。

青の王、宗像礼司。

ミョウジは宗像を上司と認めていたが、王と崇めたことはなかった。
何に動じることもなく、全てを上から俯瞰し、一人きりで立っている。
そんな姿を、宗像礼司だと認めるつもりはなかった。




始まりが唐突であったように、終わりもまた唐突だった。


寒い、冬の日の出来事だ。

その日もまた、最早耳に馴染んでしまった緊急出動のアナウンスに急かされ、特務隊の面々は現場へと急行した。
ベータ・ケースということで、陣頭指揮を執ったのは宗像だった。
各々サーベルを抜き放ち、ストレインが立て篭もったビルに突入した。
宗像のサンクトゥムが展開され、漲る力を振るってストレインを追い詰める。
いつもと何ら変わりない任務、そのはずだった。

異変は何の前触れもなく、突然降り掛かった。

言葉にするのは難しい。
だが敢えて表現するならば、消えたのだ。
体内に宿る青が、サーベルを包む青が。
世界から青が、消えたのだ。

力場が突如消失し、隊員達は戸惑った。
いや、戸惑い、などという言葉では表しきれない。
それは、途方もない喪失感だった。
インスタレーションを受けたその瞬間から、常に己の中にあった確かな青。
それが、五感の何を以てしても感じ取れないのだ。
まるで酸素を失った生き物のごとく、隊員達は動きを止めその場に立ち尽くした。

幸いだったのは、相手のストレインからも異能の力が消えたことだろう。
青の力を失くしたとはいえ、セプター4の特務隊は優秀な戦闘集団だ。
訓練を受けた隊員が何の力も持たない一般人を相手に遅れを取るはずがなく、宗像の一喝により我に返った面々は力業で以て敵を気絶させた。

誰しもが、言葉を発せなかった。
ストレインであった男を捕縛し、静まり返った現場。
サーベルを掲げようとも、意識して青の力を発現させようとしても、それは一向に現れない。
現場では常に周囲を覆うはずの、宗像のサンクトゥムもない。
頭上を振り仰いだ隊員達の目に、ダモクレスの剣は映らなかった。

「……どうやら、私はただの人間になってしまったみたいですね」

戸惑いも驚きも見せず、ただそう言って困ったように笑った王を、隊員達は呆然と見つめることしか出来なかった。


その日、その瞬間。
石盤は唐突に力を失くし、ただの石の塊へとその存在を変えた。


青だけでなく、赤も、緑も、あの白銀や黄金でさえも、力を失くした。
この世界から異能は消え失せ、王とそのクランズマンにも力の片鱗さえ残らなかった。
セプター4は解体され、青を含め全てのクランが解散した。

そして、宗像礼司は王位を退いた。



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