それは陽だまりに似て[1]
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目を覚ますと、妙に身体が気怠かった。

小さく呻き、首を捻る。
視線を送った右隣りに、はじめさんの姿はなかった。

「あれ………何時……?」

手を伸ばし、ベッドサイドのテーブルからスマホを取り上げる。
スリープを解除して画面を確認すれば、時刻は午前8時を少し回ったところだった。
いくら休日とはいえ、少し寝過ぎてしまったかもしれない。
昨夜は日付が変わる前に寝たはずだから、寝不足ということもない。
それなのになぜだか身体が重く感じられて、私はゆっくりと上体を起こした。
ベッドから足を下ろせば、視界が少し揺れる。
熱でもあるのだろうか。
しっかりしないと。
そう言い聞かせ、寝室のドアを開けた。


「起きたか、おはよう」

リビングに顔を出せば、はじめさんはソファで新聞を読んでいた。
ローテーブルの上に、コーヒーの入ったマグカップが置かれている。

「おはようございます。ごめんなさい、寝坊しちゃって」
「構わぬ。よく眠れたか?」

はじめさんは、新聞を綺麗に折り畳んで立ち上がった。

「……どうした、顔色が良くないな」

私のそばまで来たはじめさんが、そう言いながら顔を覗き込んでくる。
その眉が、心配そうに顰められた。

「ちょっと、だるくて……」

この人に隠し事なんてするだけ無駄だと知っているから、正直に白状する。
なに、と顔を険しくし、はじめさんが私の額に手を当てた。

「….少し熱があるようだな。体温計を持ってこよう」
「大丈夫ですよ、少し気怠いだけなので。それよりも、すぐに朝ごはんの用意をしますね」

大したことはない、そう言ったのに、はじめさんは私の言葉などまるで聞こえなかった様子で、棚から体温計を取り出し私に突き付けた。
そこまでされて拒否できるはずもなく、大人しくそれを腋に挟む。
しばらくして電子音が鳴り、37.5℃という数字が浮かび上がった。

「ほら、ちっとも高くな、」
「あんたの平熱は35℃台だろう」

私の手から体温計を奪い取ったはじめさんが、私の言葉を遮って呆れた声を上げる。
それは事実だったので、反論の余地はなかった。

「今日は安静にしていろ、いいな」

問答無用とばかりに言いつけられ、どうにも申し訳なくなってくる。
まだ朝ごはんも作っていないし、洗濯もしていないのに。
そんな私の思考を読んだのか、はじめさんが苦笑した。

「家事なら俺がやっておく。だからあんたは早く寝室に戻れ」
「……でも、はじめさんだって久しぶりのお休みなのに……」

疲れているでしょう、と見上げれば、はじめさんは首を横に振った。

「俺は大丈夫だ」
「でも、」
「……………ゆえ、問題ない」
「え?」

不意にはじめさんの声が小さくなり、その不明瞭な言葉が聞き取れず首を傾げた私の視線の先。
はじめさんは、微かに目元を朱に染めた。

「……俺は、あんたの顔を見れば疲れなど吹き飛ぶ故、問題ない」

落ちる、沈黙。
自分で言っておいて耐え切れなくなったのか、はじめさんは口元を手で覆うと外方を向いた。
赤くなった耳が、何よりも雄弁にはじめさんの気持ちを物語っている。
思わず、ふふ、と笑みが零れた。

「いいから早くベッドに戻れ!」

照れ隠しなのか、はじめさんの口調が少し荒くなる。
今度は、素直に頷いた。

「あんたの好きなヨーグルトサラダを作ってやる。少し待っていろ」

はじめさんはそう言って、私の頭を一度ぎこちなく撫でると、キッチンの方へ歩いて行く。
その背を見送ってから、私も寝室へと足を向けた。






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