二つの心が選ぶ愛[2]きっかけは、覚えておらぬ。
いつから、と正確に思い出すことも出来ぬ。
気が付けば、俺のナマエに対する感情は、兄が妹に抱くべきものではなくなっていた。
元よりナマエも同じ想いだったのか、それとも俺の変化に影響を受けてしまったのか。
ナマエも、俺を兄としてではなく一人の男として見るようになった。
俺たちはもう、兄妹ではない。
一人の男と、一人の女だった。
「あ、あ……っ、や、はじめ……っ」
華奢な腰を掴んで何度も昂りを押し付ければ、ナマエが身悶えて喘ぎ声を上げる。
普段のあどけない表情がまるで嘘のような、嫋やかで扇情的な姿。
何も知らなかったナマエに、一から全てを教えたのは俺だった。
俺だけが、彼女を知っている。
俺だけが、彼女に触れられる。
この依存と執着は、最早シスターコンプレックスなどという言葉では片付けきれなかった。
「そこ、だめ……っ、や、あああっ」
こうして、家に両親のいない間に、何度ナマエを抱いただろうか。
世間からも親からも隠れて、誰に告げることもなく、二人の間だけで育まれてゆく愛。
これがいつかナマエを苦しめると、分かっていた。
例え血が繋がってはおらずとも、俺たちは兄妹だ。
決して、愛し合ってはいけない関係だった。
「……は……っ、ナマエ……っ、」
「ん、ぅあ……っ、あ、も、……っ」
分かっていて、愛してしまった。
いつかこの関係は、ナマエの心に大きな陰を落とすだろう。
誰にも認められぬこの関係は、ナマエを不幸にするだろう。
いま手を離してやれば、ナマエは誰か別の男を選ぶことが出来る。
平凡で、周囲に祝福される、そのような幸せを手にすることが出来る。
全て、理解しているのだ。
「あ、ああ…っ、はじめ……っ、も、いっちゃ、」
それでも。
たとえ、そうだとしても。
「いけ、ナマエ……っ、」
「ん、……ああああっ!」
この手を離してやることは、出来ぬのだ。
ベッドから起き上がろうとしたナマエの肩を押さえ、腕の中に閉じ込めた。
触れ合う素肌は熱く、外の寒さを忘れさせてくれた。
「はじめ、お母さん帰ってきちゃうから、私部屋に戻らないと、」
そう言って身を捩るナマエを、きつく抱き締める。
すぐに抵抗はなくなり、ナマエが俺の胸元に顔を埋めた。
許してくれ、などとは言えぬ。
いつかナマエが俺を恨む日が来るかもしれぬと、それも分かっていた。
自由にしてやることが出来れば、どれほど良かっただろう。
ナマエと、彼女が選ぶ誰かとの幸せを祝福することが出来れば、どれほど良かっただろう。
だが、閉じ込めてしまった。
野に咲く花を手折るように、小鳥の羽をもぐように。
この腕の中に、身体も心も全て奪い、雁字搦めにしてしまった。
もう二度と、手放してはやれぬのだ。
「……はじめ、」
叫びすぎて掠れた声が、俺の名を呼んだ。
お兄ちゃん、ではなく、はじめ、と。
そう呼ばれるのが好きだった。
「どうした、」
頭を押さえ付けるように回していた手で、柔らかな黒髪を梳いた。
ナマエはしばし黙り込んでから、やがて小さく呟いた。
「ずっと、一緒にいてね」
消え入りそうな声で、紡がれた願い。
一瞬、息が詰まった。
恐らくナマエもまた、理解しているのだろう。
この先に待ち受ける未来を。
如何に厳しい道を歩むことになるか承知の上で、俺と共に在ろうとしてくれている。
俺の羽織ったワイシャツを握り締める小さな手が、愛おしかった。
俺の存在を確かめるかの如く、胸元に押し付けられた額。
「約束しよう」
その身体を強く抱き締め、蟀谷に唇を押し当てた。
小刻みに震えるナマエが恐れるものは、世間からの白い目でも親の反対でもなく、俺との別離だと、分かっている故。
「俺は一生、お前の傍にいる」
この手は決して離さぬと、約束しよう。
二つの心が選ぶ愛- たとえ、全てを失ったとしても -
あとがき
ハク様へ
お待たせ致しました。27万打の際にリクエストを頂いておりました、一君夢でございました。遅くなってしまって、本当に申し訳ありません(>_<)
血の繋がっていない兄妹。表向きでは兄妹を装いつつ、本当は愛し合う秘密の関係を、切甘裏で、ということで。こんな感じになったのですが、いかがでしたでしょうか。
きっと一君は色々難しく考えてしまう人だと思うので、彼の葛藤とそれでも抑えきれない想い、に焦点を当ててみました。お気に召して頂ければ幸いです。
この度は、リクエストをありがとうございました。これからもThe Eagleをよろしくお願いします(^^)prev|
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