さよならの代わりに[3]
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「ここでもう一度、心から感謝の言葉を申し上げ、答辞とさせて頂きます」


卒業生代表、斎藤一


その、凛とした声が体育館に響き渡り、やがて大きな拍手に包まれた。
私は教員席に座り、壇上で一礼する斎藤君を見つめていた。

僅か二年という間ではあったけれど、彼の学生生活を見てきた。
何事にも真剣に取り組み、素晴らしい成績を修め、最後にはこうして卒業生代表としての務めを立派に果たしてくれた。
間違いなく、薄桜高校が誇る優秀な生徒だった。
永倉先生は辺りは、落ち着きすぎていて心配だ、なんて言っていたけれど。
実は曲がったことが大嫌いで、時々むきになることも。
沖田君と喧嘩をする時は、意外と年相応に子どもっぽい言い争いをすることも。
私は知っている。

舞台から降りて、教員席へと一礼をした斎藤君が、顔を上げた。
一瞬だけ、目が合った気がした。


あの日。
私に背を向けて国語科準備室から出て行く後ろ姿を、私は黙って見送った。
それ以降、私と斎藤君の間に必要以上の接点はなかった。

正しいことをしたと、今でも思っている。
後悔はしていない。
何度あの日に立ち返ったとしても、私は必ず同じ選択をするだろう。

恋は、いつだって気紛れで、不確かなものだ。
その時はそれしか見えなかったとしても、必ず醒める日がくる。
斎藤君も、そして私も。
あの日私が彼につけた傷は、もしかしたらまだ癒えていないかもしれない。
でも、それは時間が解決してくれる。
大学に入学し、新しい環境に慣れ、交友関係が広がる。
その中で、きっと素敵な出会いもあるだろう。
斎藤君はまた、違う誰かを好きになれる。

だから、これでいいのだ。

未来の彼の中に、私はどのような存在として残るのだろうか。
若かりし頃の、ほろ苦い思い出なのか。
甘酸っぱい恋の記憶なのか。
それとも、これもまた時間と共に忘れ去られていくのだろうか。

私はきっと、忘れないだろう。
初めての生徒。
その真意がどうであれ、慕ってくれた。
斎藤君が何度も呼んでくれるから、慣れることが出来た。



「ミョウジ先生、」


卒業式が終わり、散々騒いでいた卒業生たちがようやく下校し。
誰もいなくなった、三年一組の教室。
背後から、名前を呼ばれた。
その声が誰のものかなんて、振り返らなくても分かっていた。

「…斎藤君、どうしたの?」

ゆっくりと振り返る。
教室の入口に、斎藤君の姿があった。
卒業というのは、不思議なものだ。
昨日までと何が変わるわけでもないのに、どうしてか別人のように見える。
とても、眩しく見えるのだ。

「探しました」

ゆっくりと歩いてくる姿は、この二年で少しだけ精悍さを増した。
子どもだ子どもだと思っていたのに、時々ドキリとするような表情まで見せるようになった。

「あんたに、頼みがあります」

正面から、対峙する。
何か決意を秘めた表情は、もう子どものものではなかった。

「応えて欲しいとは言いません。だが、最後まで聞いてほしい。……今ならば、言わせてもらえますか」

ねえ、どうしてだろう。
あの日私は、ひどいことを言った。
教師として拒絶したはずなのに、教師として言ってはいけないことを言った。
貴方の心を、プライドを、傷付けたのに。


「俺はずっと、あんたのことが好きでした」


今も、好きです。
その言葉は必要なかった。
斎藤君の目は、私を見ていた。
二年前からずっと、私を見てくれていた。

「あんたが、子どもになど興味はないと言うのならば、出直します」
「え……?」

斎藤君の言葉は、自らを嘲るような口調ではなく。
怒っている様子もなかった。
ただひたすらに、真剣だった。

「俺が、大人になった時。もう一度来ます」


恋は、いつだって気紛れで、不確かなものだ。
でも、そんな恋に縋りたいと思った時。


「故に、その……待っていてくれると、嬉しい」

最後の最後で、斎藤君は突然恥ずかしげに顔を背けて。
そのまま私の言葉も待たず、踵を返した。
入ってきた時とは正反対に、慌てた様子で教室を出て行く。

その、後ろ姿に。


「………はじめ君!」



でも、そんな恋に縋りたいと思った時。
恋はきっと、確かなものになる。




さよならの代わりに
- この愛を告げたなら、きっと -




あとがき

はにさんへ

うわああああんっっ、自信ないよおおおお!!!
やっぱり学パロ難しいよおおおお!!!

と、いうわけで。教師×生徒の切甘テイスト、という鬼畜リクエストwwに、精一杯お応えしたつもり……なのですが。どうでしょうか。こんな感じで合ってます?!
卒業ENDという、定番ネタを使ってしまって。しかも思いっきり季節外れだし。すみません、これしか思い浮かばなかったんです。
押して駄目なら引いてみろ、を無意識に実行しちゃった一君と、教師という立場から彼の将来を案じつつもそれに絆されちゃったヒロインちゃんでございました。
お気に召して頂ければ幸いです。
この度はリクエストをありがとうございました(^^)









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