貴方へと続く道のり[3]
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「こんの馬鹿野郎!」

流石に無視するわけにもいかず、恐る恐る開けたドアの向こう。
まさに鬼の形相な土方さんが、マンション中に響き渡りそうな大声で怒鳴った。
ぽかんと固まった私を他所に、土方さんは強引に玄関の中に入ってくる。
そしてドアが閉まるよりも先に、私は土方さんに抱き締められていた。

「心配させんじゃねえ!何考えてやがんだてめえはっ!」

頭上から降ってくる怒声とは裏腹に、縋るような手つきで背中と頭をきつく抱き寄せられる。
何が何だかまるで分からなくて、ただ、スーツから香る土方さんの匂いだけが確かだった。
煙草と汗と香水の混じった、土方さんの匂いだ。

「ひじかた、さ…」

顔を胸元に押し付けられて、骨が軋むほど抱き締められて、息が苦しい。
だけどそんな私より、土方さんはもっと苦しそうな声を搾り出した。

「なんで、伝わんねえ…、なんで分かんねえんだ…っ」

掠れた声と共に、廊下の壁に押し付けられる。
間近に迫った紫紺が、真っ直ぐに私を射抜いた。

「俺から逃げんじゃねえ、ナマエ」

何か言葉を返す暇なんて、与えられなかった。
勢いよく重なった唇に、音が飲み込まれる。
口付けは性急で、そして強引だった。


原田さんとの一件を知ってからの土方さんは、行為に対してとても慎重になった。
私を怖がらせないように、慈しむように優しく抱いてくれた。

「………土方、さん?」

その土方さんがいま、私の両手をシーツに縫い留め、私を見下ろしている。
抵抗する隙なんて、これっぽっちもなかった。
気が付けば寝室で、気が付けばベッドの上にいて、そして気が付けばジャケットとブラウスを乱されていた。
見下ろしてくる視線に全てを見抜かれてしまいそうで、思わず目を逸らす。
するとすぐに顎を掴まれて引き戻され、顔を固定された。

「目ェ、逸らすんじゃねえ。俺を見てろ」

そう言った土方さんが、首筋に、胸元に唇を押し付けては強く吸い付いていく。
肌を擽る黒髪に、思わず指を絡めた。

「……ぁ……ん、や…っ」

下着をずらした隙間から息づく頂に舌を押し付けられ、身体の芯が火照り始める。
土方さんの手は早くも下肢を弄り、太腿や脚の付け根をなぞっていた。

「…ひ、ぅ………ん、ん……」
「もっとだ、ナマエ。もっと感じろ」

下着の上から割れ目を確かめる指の動きに翻弄され、腰の辺りに疼きを感じる。
中が濡れてきたのが、自分でも分かった。

「あ…っ、ああ、ん……っ、」
「俺だけ見てろ…っ、他のことなんざ考えるんじゃねえ」

耳元に落とされる言葉はどれも命令口調なのに、なぜか震えていて。
私は思わず土方さんの背に縋り付いた。

「ほかのこと…ん、…なんて、…っ考えてな……っ、ああ…ん、」

私は、貴方を見ているのに。
ずっと、見ているのに。

「だったら何で逃げやがった!」
「ひ、あああっ」

怒鳴り声と共に、中に侵入してきた長い指。
いきなり奥まで突き立てられ、腰が跳ねた。

「…ひゃ、ああ、……ん、あ…っ」
「答えろ、ナマエ」

激しい水音が響き、中を縦横無尽に掻き乱される。
強い刺激に頭の奥が霞み、私はほとんど無意識に答えを口走っていた。

「…あ、あ……だって、おんな…っ、のひと……っ」
「何だって?」
「おんなのひと……っ、一緒に、……あ、あん…っ、あ、……わた…し…っ、邪魔かな……って、…………土方、さん?」

急に、刺激が止んだ。
見上げれば、土方さんが目を見開いて私を見ていた。

「………お前、それ…」

唖然とした顔で、土方さんが呟く。
その段階になってようやく私は、店で飲み込んだはずの言葉を吐き出してしまったことに気が付いた。

「……あ……その、ごめんなさい…」

言うつもりじゃなかったのに。
心の内に、仕舞っておいたはずなのに。
私が嫉妬したのだと知ったら、土方さんは面倒だと思うだろうか。
呆れられるだろうか。

そう、唇を噛んだ私の上で。

「…馬鹿野郎、何謝ってやがる」

眉間に皺を寄せた土方さんが、苦笑した。

「そういうことか。…ったく、お前は、」
「すみませ…」
「だから、謝んじゃねえよ」

土方さんが啄むように私の唇に触れた。
そして、嬉しそうに口角を上げた。

「嫉妬、してくれたのか」
「………はい、」

穏やかな口調に絆されて、思わず素直に頷けば。
土方さんの笑みが、一層深くなった。

「…なあ、ナマエ。俺が今、何を考えてるか分かるか」

そう聞いた土方さんは、でも私の答えを求めていたわけではないみたいで、そのまま言葉を続けた。

「嬉しいんだよ、」
「……嬉しい、ですか?」

予想もしていなかった単語に首を傾げれば、土方さんは少し照れたように視線を逸らして。
何度か唇を蠢かせた後、結局何も言わずに再び指をぬかるみの中に埋めた。

「ひ…っ、ああああ…っ!」

全く予期せぬ刺激に、そのまま果ててしまう。
一度激しく撓った身体が弛緩し、シーツに深く沈み込んだ。
土方さんはそんな私の上に体重をかけるように覆い被さり、耳元に唇を寄せて。

「お前が妬いてくれたのが、嬉しいんだよ」

そう、囁いた。

「土方、さん…?」

片肘をついて顔を上げた土方さんを見上げれば、紫紺が優しく細まった。

「お前は誰のもんだ、ナマエ」
「え……?」
「お前は、誰のものだ」

私が、誰のものか。
答えは、ひとつしかない。

「土方さんのもの、です」
「だったら。俺は、誰のもんだ?」

逸らせない視線に捕らわれる。
紫紺の奥には、焔が揺らめいていた。
その瞳が、答えろ、と命じている。

欲張りだろうか、傲慢だろうか。
それでも、この答えを口にしていいのだろうか。

「……言え、ナマエ。俺は誰のもんだ」

シーツの上に投げ出した手が、土方さんの手にきつく握られる。
その強さに後押しされて、私の唇は言葉を紡いだ。

「土方さん…は、……私のものです。ぜんぶ……全部、ほしいです」

その瞬間、土方さんは唇の端を吊り上げて笑った。

「上等だ、ナマエ。全部お前にくれてやる。俺は、お前のもんだ」

胸の内に、熱い感情が込み上げる。
思わず手を握り返せば、土方さんの指が私の手の甲を撫でた。

「……が、今は先にこっちをくれてやらないと…なっ、」

それは、あまりに唐突に。
中に押し入ってきた、大きな熱。

「…っ、ひああああ…!」
「…は……っ、…全部、受け止めろよ……ナマエ……っ」

最奥に沈められる彼の全てが愛おしくて、私の身体は涙を零しながら啼いた。




結局、居酒屋で出会った女性が実は土方さんの従姉で。
全く何の心構えもない状態で身内に恋人といるところを見られたから焦ったのだということを私が知るのは、その翌朝のことだった。




貴方へと続く道のり
- これが、最後の一歩だった -



あとがき


蝶々様へ

お待たせ致しました。「理由なき愛の証」続編、初デートで嫉妬するヒロインちゃんでした。
デートというリクエストだったのに、仕事上がりの食事になってしまいました。これをデートと呼んでいいのか……すみません(>_<)
復縁して、それでもどこかに不安を抱えたヒロインちゃんと、そんなヒロインちゃんとの距離がもどかしい土方さん。というイメージでした。
お気に召して頂ければ幸いです。

この度は、企画へのご参加ありがとうございました。これからも、The Eagleをよろしくお願いします(^^)





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