貴方へと続く道のり[2]その後の展開は、想定外だった。
まさか土方さんがもう一度やり直そうとしてくれるなんて、思ってもいなかった。
戸惑って、逃げ腰になって。
それでも何度も伝えられる愛情に、私は再び頷いた。
元より、土方さんのことを嫌いになったことなんてなかったのだ。
自分で別れを告げてもなお、土方さんのことが好きだった。
僅かな抵抗は、再び同じ道を辿ることを恐れたから。
それでも結局私は、土方さんの元に戻った。
変わらなければならないのは、私だ。
以前みたいに、自分を全て押し殺してはまた同じことになってしまう。
ちゃんと自分の思いを伝えて、話して、二人で道を探して行かなければならない。
そう、理解してはいるのだけれど。
「ん、お疲れさん」
「お疲れ様です」
自分の手にあるビールジョッキを見て、やっぱり申し訳なく思ってしまう。
どこかで引け目を感じている。
妙にいつもより苦く感じるビールを喉の奥に流し込んだ、その時だった。
「トシ?」
不意に降ってきた女性の声。
土方さんと揃って振り向けば、通路に女性客の姿があった。
「お前、なんでこんな所に…!」
私の目の前で、土方さんが慌てた様子で立ち上がる。
一瞬ちらりと私に送られた視線に、息が詰まった。
「仕事帰りに同僚と飲んでるとこ。そっちは…彼女さん?」
「あ…ああ、」
土方さんと話していた女性が、私の方を見る。
綺麗な人だった。
会釈され、私も慌てて小さく頭を下げる。
「ったく、驚かすんじゃねえよ」
「ごめんって。あ、ねえそれより来月のことなんだけどね、」
立ったまま話を続ける土方さんと女性を、直視出来なかった。
その人は誰?
どういう関係なの?
一瞬焦ったのは、どうしてなの?
聞きたいことなんて、ひとつも口に出来る気がしなくて。
突然割って入ってきたのはこの女性のはずなのに、いつの間にか場違いなのは私自身のような気がしてきて。
土方さんは最初は嫌そうな顔だったけれど、次第に普段通りの表情になった。
女性も楽しそうに笑っている。
私、また、貴方の視界の中にいない。
以前、仕事のことしか考えていなかった貴方のように。
貴方はまた、私を追いやってしまう。
「……あの、私帰りますね」
財布の中から千円札を一枚引き抜き、テーブルの上に乗せた。
「…は?おい、ナマエ!」
「ごゆっくり、話していって下さい」
土方さんの顔は、見れなかった。
代わりに女性にそう告げて、私はその場から逃げ出した。
「ナマエ!」
喧騒の中、土方さんの声が追ってきたけれど、振り返れなかった。
そのまま店から飛び出した。
結局、私は何も変われていない。
土方さんに嫌われるのが怖い。
面倒な女だと思われたくない。
あの頃の、私のままだ。
電車に飛び乗って家に帰って、着替えもせずにベッドにダイブした。
途中でスマホが震えた気がしたけれど、怖くて確認出来なかった。
土方さんが女性関係にルーズな人じゃないのは知っている。
浮気をするような人ではない。
でも、私と別れていた期間は?
あの空白の三ヶ月、誰と何をしていたのかなんて、私は知らない。
聞けるはずもないし、たとえ土方さんがその間に他の女性と関係を持っていたとて、私に責める権利なんてない。
別れを告げたのは、私なのだから。
「…やっぱり、上手くいかないなあ」
無意識に零れ落ちた独り言が虚しく枕に染み込んだ、その瞬間。
玄関のインターホンが鳴り響いた。
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