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ルルさんの小さな歓迎会をやった日の翌日。
未だに昨日の高揚感が抜けず、体が妙に熱い気がする。
昨日のことを思い浮かべて小さく笑っていると、肩をぽんっと叩かれた。


「おはようございマス、ルミア。今日はなんだかご機嫌デスね」

「あ、……」


振り返って相手を確認すると、後ろにいたのはビラールさんだった。
玄関ホールで誰かと会うのは別に珍しいことじゃないけど、私に話し掛ける人は少ないから大方の予想はついていたけれど……。


『おはようございます、ビラールさん。私、そんなにご機嫌なように見えましたか?』


鏡に文字を浮き上がらせながら、ビラールさんを見上げた。
あんまり、顔に出さないように注意してたつもりだったんだけどなあ。
私の考えが読めているのか、彼は困ったような笑みを浮かべて私の頭を数回撫でる。


「ふふ、顔には出てないデス。いつもよりルミアの周りの空気が柔らかい気がシタので、チョット聞いてみただけデス」

『そうですか?……でも、機嫌が良いのは確かです』

「学校までの道のりは長いデス。アナタがご機嫌な理由、もしよかったらワタシに話してもらえますカ?」


にこにこと笑顔を絶やさず浮かべる彼に、私はこくりと頷くと足を学校の方へ進めながら昨日のことをゆっくりと鏡に映して話した。


『昨日、ルルさんのルームメイトのアミィさんという方と2人でルルさんの……その、小さな歓迎会を開いたんです』

「アミィ……、彼女のコトは学校で少し耳にしたことがありマス」


確か家が有名な占星術師の家系なのだと聞きまシタ、と口にするビラールさんに私はひとつ頷く。
アミィさんの家はここラティウムではとても有名だから、ミルス・クレアで彼女の家の事を知らない人は稀だ。

なにせここは世界中の魔法が集まると言われている魔法都市で、しかも私たちのいる場所は世界一の魔法学校と誉れ高い、ミルス・クレア魔法院。
魔法関係にみんなが聡いのは当然のことのようなもの。
政治や経済関係で有名な貴族や家系よりも魔法関係で有名な家系の方がミルス・クレアでは浸透しやすいのだ。


「それで彼女と2人でどのような歓迎会を開いたのですカ?」

『本当に歓迎会なんて呼べるようなものじゃないかもしれないですが。アミィさんと一緒にカップケーキを焼いたんです……歓迎と感謝の気持ちを込めて』

「……感謝、ですカ?」

『はい。人から見たら変かもしれません。だけど私はルルさんとアミィさんに救われているんです』

「救われていル?」


ぽかん、と呆気を取られたような表情をするビラールさんに私は苦笑を浮かべて、勿論ラギくんやエストくん……たくさんの人たちから救われていますけど、とすぐに付け足した。


『はじめて、なんです』


はじめて、純粋な人間の女の子と《言葉》を話せました。
はじめて、純粋な人間の女の子の友達になりました。

私のことをあまり知らないから、だから仲良くしてくれているのかもしれない。
私のことを知ったら、友達じゃなくなるかもしれない。

だけど、彼女のおかげで新しくアミィさんという女の子の友達が出来ました。
アミィさんは前から学校にいるから私の噂も知っているはず。
なのに、友達だと言ってくれました。

そんな2人の存在に私は救われているんです。
ルルさんとアミィさんのおかげで、前に進もうと思えるようになったんです。


『ルルさんは私の太陽、なのかもしれないです。暖かくて優しくて、前に進もうとする足を手助けして……背中を押してくれる人なんです』


私がどれだけ2人に救われたか話すとビラールさんは、そうですカとやさしく目を細めながら言う。


「アナタは2人のことが大好きなんデスね」

『はい。彼女たちは私にとってとても大切で……かけがいのない人です。だから、どうしても感謝の気持ちを伝えたかったんです』


きっと彼女たちは昨日の歓迎会は本当にただの《歓迎の証》だと思っているだろう。
私もアミィさんにルルさんへの《歓迎の証》を用意したいと言って歓迎会を開いたんだし……2人はきっとそう思っているはず。
でも私の真意は《歓迎の証》じゃない。
出会えたことの奇跡に、友達だと思ってくれたことに、2人に《感謝の心》を用意したかった。

きっと遠くない未来に訪れる選択の日が来たら、たぶん私たちは袂を別れることになるのだろう。
本当は一生の選択なんてしたくないけど、私たち混血児は逃げられない運命がある。
その日がくるまでは、つかの間の幸せに浸っていたい。
だから、お願いです。
別れの時がくるまでは、どうか……、私と友達でいてください……。

そう心の中で願いを切に言いながら、私はビラールさんと並んで静かに歩いた。


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