10

今日は朝早くから起きて、街へ出掛けて行ったルルを見送った後、私は寮の自室へ戻りベッドに腰掛けた。
ルルがミルス・クレアに来て……私とルームメイトになって、もう一週間も経つのかとしみじみしてしまう。
まだ一週間しか経っていないのに、いろいろあったと思い返す。

ルルが私のルームメイトになって、一人で広く寂しいと感じていた部屋がとても温かい場所に変わった。
人見知りが激しくて、自分でも認めてしまうくらいあがり症な私。
だけどルルとは会ってすぐに打ち解けられた。

彼女はすぐに人と仲良くなれる人なんだなって思って少し羨ましいと考えてしまうこともある。
だって、まさかあのルミアさんと話せていたんだもの。
とてもすごいと思ったわ。
彼女はラギさんやエストさん以外の人とはあまり喋らない人だから、ルルと話しているのを見てとても驚いたわ。
噂で聞いたり遠目から見ていた彼女と、ルルと話している彼女はとても違った印象を受けた。

外壁の辺りでルルが初めてドラゴンに変身しているラギさんと会ってしまった時、ルルに話掛けたルミアさんはとても人間味のあるように感じて……噂で聞くような人じゃないのかもしれないって思ったんだった気がする。
私と二人でルルの話を聞いていたのだけれど、ルルが何を言っているのか全然わからなくて、二人で困ったように顔を見合わせたのをすごく覚えているわ。

その時かしら、彼女と話してみたいと思ったのは。
でも私はルルみたいに誰とでも打ち解けられる訳じゃないから、きっと無理よね。
そう半ば諦めていたのだけれど、意外にも彼女と話したいという自分の望みが叶ったのは、彼女と会った次の日のことだった。


ルルと二人で夕食を食べながら話していた時に、ラギさんとルミアさんがこちらにきて……確か、ラギさんがビラールさんの話からルルと会った時のことについての話をしはじめたのよね。
ルルとラギさんが話しているのを聞いていたらなんだかほほえましく感じて……そっと見守っていたら同じく優しい顔で二人を見守っているルミアさんと目が合って……それがきっかけで自然と私たちは仲良くなった。

私はルルみたいに話し上手じゃないから、仲良くなれるか不安だったのだけれど、それはルミアさんも同じだったみたいで、なんだか親近感がわいてきたの。
ルルと出会ったこの一週間、もっとルルやルミアさんと仲良くなりたい―――そう思った。

だけど、どうすればもっと仲良くなれるのかしら……?
ルルはともかく、ルミアさんとはあまり接点はないし……それに私は口下手だから上手く話せない。
別に今すぐ仲良くなる必要はないと思うのだけれど、なんだか胸がざわざわする。
ふう、と息をついて悩んでいたらドアをノックする音がした。


「っあの……失礼、します。ア、アミィさん…………ルミアで、す…けど……」


そう言いながら、そろりと扉から顔を覗かせるルミアさんに私はベッドから立ち上がると扉の方に近寄った。


「ルミアさん、中に入ってもいいわ。何か困った事でもあったのかしら……?」

「い、いえ……あ、の……困った事…じゃなく、て……。でも……相、談…したいこ、とが……」

「相談?私でよければ話は聞くけれど―――」


でも私じゃあ力になれないかもしれないわ、と力無く笑うとルミアさんはブンブンと首を振りそんな事ないと言って、部屋を見回す。


「……ルルさんは、……いない、です…よ、ね……?」

「えぇ、ルルなら街に散策しに出掛けたわ。もしかしてルルもいないとダメかしら……?」

「い、いえ……そうじゃない、です……」


むしろいない方が好都合なのだと話す彼女に私はえ?と疑問符を浮かべる。


「ルルがいない方がいいって……どういう事なのかしら?」

「えっと……実は…………その…………」

「大丈夫、落ち着いて。ゆっくりでいいわ」


顔を赤く染め、目をぎゅっと閉じる彼女に私はそっと声をかけて緊張を解そうと話し掛けて彼女の言葉を静かに待つ。


「……あ、の…!わ、私……ルルさん、に…………」

「ルルに?」

「……その……何か、プレゼント…………してあげたく、て……」

「プレゼント……?」


反復した言葉にコクコクと頷き、プレゼントです……と再び口にするルミアさん。


「ずっと……機会がなく、て……ルルさんに…………その……歓迎、の証……みたいな、の……あげたい、…な……」

「そうよね。私もバタバタしてて……ルルになにもしてあげれてないわ」


私の言葉にルミアさんはそっと顔をあげる。
私たちは顔を見合わると頷き合った。


私たちはルルの……歓迎会みたいな大袈裟なものじゃないけれども、何かしてあげれないかと考え―――私の案でケーキを作って小さなパーティーを開く事になった。
そうと決まれば早速準備に取り掛かろうと食堂に行き、二人でプーペに厨房の一角を使わせてほしいとお願いし、貸してもらう。


「……厨房の中……はじめて、入り……ます……!」

「ふふっ。私は何度か入ったことがあるからあまり驚かないけれど、ここってすごく広いわよね」

「はい、……とても…広い……ですね……!」


キラキラとした目で珍しそうに辺りをキョロキョロする彼女に私は小さく笑って、作業に取り掛かりましょう?と声を掛けるとルミアさんは頷いた。


「作るのはカップケーキにしようと思うの。ルルがいつ帰ってくるのか判らないから、あまり大掛かりなケーキだと間に合わないかもしれないし、スポンジケーキだと粗熱を冷ますのに時間が掛かってしまうから……」


それでもいいかしら?と聞くと彼女は大丈夫だと頷くが、少し表情が硬い。


「どうかした?」

「……私……ケーキ…作ったことない……ので……」

「大丈夫よ、焦らずに丁寧にやればきっと上手くいくわ」

「う、…うん……」

「ルルがいつ帰ってくるか判らないからあんまりのんびりと作業は出来ないけれど……一緒に頑張りましょう?」


私はそう言って、まず必要な材料を集めようと二人で厨房内を探し回り……カップケーキが完成した時には既に空が赤く染まりはじめていた。
思いのほか時間が掛かってしまったが、なんとか無事にカップケーキが完成した事に私たちは安堵のため息をついた。


「……なんとか間に合い、そう…です、ね……」

「ええ、あとはラッピングだけね。あんまり沢山ラッピング用の袋を持っていないのだけれど―――」


部屋に戻り、完成したカップケーキを机の上に置いて思案していたが突然扉が開かれ、私たちはバッと扉に顔を向ける。
中に入ってきたのは、にこにこと笑顔を浮かべたルームメイトのルルだった。


「ただいまー!あ、ルミア!遊びに来てたの?」

「え、ルル!?お、おかえりなさい……」

「!あ、……えっと……う、うん………ちょっと用があって……」


私はルミアさんがルルと話している隙に、すぐに机の上にあるケーキを近くにあった箱に詰めて隠す。
それにルルが気付いたようで、首を傾げて私を見た。


「……どうかした?」

「う、ううん、何でもないの。思ったより早く帰ってきたから、びっくりしちゃって……」

「ふふっ、聞いてアミィ!あ、ルミアも!実はユリウスと一緒に帰ってきたの。それに広場のカフェでは、ラギとビラールにも会えたし、面白いお店にも入ったの!」

「そう……。楽しかったみたいね。でも、そろそろ夕食の時間だし、詳しい話は食堂で聞かせて?」

「うんうんっ!」


元気よく賛成したルルは、急いで制服から着替えると、楽な格好で食堂に向かった。
その後を追うように私たちも部屋から出ていくが、既にルルの姿が見当たらない。


「もう、ルルったら……」

「ふふっ……ルルさんらしい、です……。でも…………さっきはビックリしま、した……」

「そうね、私もすごく驚いたわ。ルルがこんなに早く帰ってくるとは思わなかったから……」


この際、もうラッピングは諦めましょう?
そう言うとルミアさんは苦笑いを浮かべながら頷く。
そして、二人でこの後どうやってルルにケーキを渡そうか考えながら食堂に向かって足を進めた。
いつ、どうやってルルに渡そうかずっと考えていたのだけれどなかなかタイミングが判らず……結局、私たちはそのまま夕食を食べ終わってしまった。


「そういえば、ルミアはアミィに何の用事があったの?」


寮の部屋に向かう途中でルルに声を掛けられ、困ったような視線を私に向ける彼女に私も眉を下げる。


「えっと……その話は私たちの部屋で話すわ。ね、ルミアさん」

「う、うん……。ちゃんと…話す、から……ちょっとだけ……待って……?」

「うん?いい、けど……」


ルルは不思議そうに私たちを見つめるが、私たちは曖昧に笑ってごまかした。
部屋につくと、ルルがベッドに寝転びながら明日から授業が楽しみだと笑う。
私とルミアさんはどうしようかとオロオロしながら、いつ話を切り出そうか迷っていた。


「?ねえ二人とも、何かそわそわしてるような気がするんだけど……何かあったの?」


言いにくいなら、無理に言わなくていいんだけど、もしかして悩み事でもある?
そう聞いてくるルルに私たちは首を振った。


「…あ、あの……、」

「実はねルル……」


私たちはちょっとためらいながらも、勇気を振り絞るようにして隠していたケーキをルルに差し出した。


「これって、……わ、ケーキ!」

「あ、あの、あなたがせっかくルームメイトになってくれたのに、ずっとバタバタしていたし……」

「…か、歓迎…会なんて……大袈裟なものじゃ…ない、けど……少しでも何かした、くて……その…………」

「じゃあ二人は私のために、このケーキを用意してくれたの?」

「……う、うん……。……プーペさんに…厨房……貸して…もらって…………」

「作るのも久しぶりだったから、あんまり味に自信がないんだけれど……」

「ルミア、アミィ―――」


もごもごと言う私たちに、ルルはベッドから立ち上がって駆け寄り―――


「ありがとう、大好きっ!!」

「……あ、あああの…………!」

「落ち着いてルル、ケーキがつぶれちゃうから……」

「そ、そっか!」


抱き着く勢いで喜んでいたルルは、その言葉で我に返ったようでピタリと動きを止めた。
それに私たち三人はくすくす笑いながら、小さな歓迎会をはじめた。


「……すっごく美味しい……!二人ともお菓子作りが上手なのね!」

「あ、の……私……何もしてな、いよ……?ほとんど、アミィさんが……作った、です……!」

「そんなことないわ。このカップケーキはルミアさんと二人で作ったものよ?でもルルが気に入ってくれたのならうれしいわ」

「うんうん、すっごく気に入ったよ!ほんとにお世辞抜きでとっても美味しいわ!」


ルルはにっこりと笑顔で言いながら、もぐもぐとカップケーキを頬張る。
それが嬉しくてつい私とルミアさんも笑みを浮かべた。

しばらく談笑をしていたが、そろそろ部屋に戻って寝ないと明日寝過ごしてしまうからとルミアさんが言い、小さな歓迎会は幕を閉じた。


「今日は本当にありがとう!それと、これからもよろしくね。アミィとルミアが一緒にいてくれるなら、頑張っていけそうな気がしちゃう!」

「……それは私の台詞だわ。こちらこそよろしくね、ルル、ルミアさん」

「……私も……です。……よろ、しくお願い…します……ルルさん、アミィさん」


なんだか今日は、昨日の私たちよりも一段と仲が深まった気がするわ。
今朝悩んでいたことも、まさかこんなに早く解決するなんて思ってもみなかったから、少し笑ってしまいそうになる。

もし私の思い違いじゃなくて、本当に二人と仲良くなれていたら嬉しいなと思いながら私は目を閉じた。


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