09

今日と明日は学校がお休み。
やりたいことが沢山あるんだけど、授業が終わった日の翌日は、寮で過ごすのが決まりみたいで、今日は外に出ちゃいけいんだって!
ゆっくり身体を休めるためだからみたい。
ヴァニア先生から貰ったパンフレットにそういう説明が書いてあった。

でもその代わり、明日はお出かけしてもいいみたいなの!
……外出許可が必要なんだけどね。
明日は街に行くつもりだったからエルバート先生にお願いして外出許可をもらいに行って、しばらく先生とお喋りしてから寮監室から出ると、お昼ごはんの時間になっていた。
ペコペコのお腹を意識しながら、食堂を目指して廊下を歩いていると目の前に見たことある後ろ姿がいた。


「こんにちはっ!エストも今からご飯?」

「…………」


エストは私の顔を見るなり方向転換しだし、慌ててエストの前に回り込むと、彼はすごく迷惑そうに顔をしかめた。
……さすがにひどいと思うな!


「確かあなたは……。ああ、湖のほとりで会った人ですね。また僕に用でもあるんですか?」

「うん。あのときは本当にごめんね。大事なメモをぐしゃぐしゃにしちゃって」

「その件についてはもう結構です。では、失礼します」


ぴしゃりと言うと、顔はすたすたと廊下を歩き出すので私は再び彼に話しかける。


「エストもお昼ごはんに来たなら、せっかくだし私と一緒に食べましょ?」

「あなたの主張は理解しかねます。それに今日はあまり食欲が湧かないので、部屋に戻ろうと思っていたところです」

「そんなのダメ!ごはんはちゃんと食べないと力が出ないんだから!それにエストの身体はごはんを食べたがってるよ!」

「……だとしても、精神的には遠慮したい気持ちでいっぱいです」

「でも栄養は取らないと!さ、ご飯食べに行きましょ?」


そしてエストは一緒にお昼ごはんを食べることになったんだけど、エストってすっごく静かなの。
ううっ……会話のキャッチボールをしたいんだけど、エストは黙々とご飯を食べるし……結局食べ終わってしまい、ふと周りを見回してみて気付いた。


「何を突然きょろきょろしてるんですか?」

「実はアミィとルミア……私の友達がね、お昼を食べに来てないみたいなの。食堂に入ってくればすぐにわかるし、エストに紹介したかったんだけど……」

「……紹介の必要はありません。彼女たちのことなら知っていますから」

「え?ひょっとして知り合い?あ、でも昨日アルバロがルミアとエストは仲が良いみたいなこと言ってたっけ?でもアミィのことはなんで知っているの?」

「占星術を専攻している人は少ないので、そのことで少し質問したことがあります」

「へえ、じゃあエストってルミアだけじゃなくって、アミィともお友達なのね!」

「違います。知っているだけです。知人と友人を混同しないでください。」


エストは間髪をいれずに否定した。


「彼女たちも僕と同じで、他人と関わりたがらないタイプのようでしたし彼女に関しては本当に一度質問してそれっきりです」

「アミィとルミアが?確かにちょっと緊張しやすいみたいだけど、そんなことないと思うなあ」

「あなたの主張に興味はありません。僕はそう感じたというだけの話ですし」


それでは僕はこれで失礼します、とエストは私を置き去りにして食堂から姿を消した。
うーん……アミィとは本当に知り合いって仲みたいだけどルミアとはどうなんだろう?
あんまり詳しいことは話さなかったし……。


「……エストったら素っ気ないなあ。逃げられちゃったけど、次はちゃんとルミアのことも聞かなきゃ!」


とりあえず部屋に戻ろうとした私はプーペさんにお礼を言い、がらがらの食堂を後にする。
部屋に戻ったあとは家から送られてきた荷物の片付けをアミィに手伝ってもらいながらやって、一日が終わった。


次の日の朝。
わくわくと気分を弾ませながら身支度を整えていく。
制服にマント、校章もちゃんとつけたし、おばあちゃんの杖も持った。


「うん、準備万端ね!」

「行ってらっしゃい、ルル。楽しんできてね」

「うん、行ってきまーすっ」


アミィに大きく手を振りながら私は門をくぐり抜ける。
そういえば、学校の外に出るのは一週間ぶりになるんだよね。
今日は1日、勉強のことは忘れてのんびり羽を伸ばそうと考えながら、私はラティウムの街中へと歩き出す。

家々ごとにガーデニングを競うような、雰囲気のいい住宅街を抜けると、ラティウムの中心である中央広場に着いた。
楽しそうな街の雰囲気に胸をドキドキさせていると聞いたことのある声が2つ、響いてきた。
私は辺りを見回してみるとどうやら2人は広場に面した一等地のおしゃれなカフェにいるみたい。


「ラギ!ビラール!」

「ん……?あぁ、ルル。アナタもゴハンですカ?」


側に駆け寄り、2人に声をかけるとビラールはのんびりと振り返ってにっこりと微笑みながら私に話しかける。


「声が聞こえたから来てみたの。ビラールとラギは、2人で仲良くお食事中だったの?」

「これが仲良く見えんなら、お前は目か脳の医者に行け」


ラギは苛々した様子で私を見て言うが、ビラールはラギの言葉を全く聞いてなかったかのように話し出す。


「ハイ。とても仲良しデス。ところでルル、もしよかったらアナタも一緒にお茶しませんカ?」

「わあっ、ありがとう!」

「お前な……。今のはフツー遠慮するとこだろ?」

「そ、そうなの?」

「そんなことはありまセン。ワタシもラギもアナタがいると、とても食事が楽しくなりマス」

「…………」


ラギは何も言いかえさなかったけど、微妙に疲れた顔で食事を再開する。
丁度お腹も空いてきてお昼を食べたかったので、私はビラールの言葉に甘えて一緒に食べることにした。
そこで私は2人の話を聞いていると、どうやらラギの機嫌が悪いのはドラゴンに変身してしまったかららしい。
なるほど、と納得しているとビラールから話をふられ、私はビラールの方を見る。


「勉強の調子はどうですカ?この前会った時は落ち込んでいましたカラ、気になっていたのデス」

「うん、なんとか補修も受けないで済んだし、今週は無事に乗り切れたみたい。この前は本当にありがとう。ビラールが励ましてくれたから頑張っていけそうな気がする」

「役に立てたなら嬉しいデス。ワタシもアナタのこと応援してマス」


ビラールの応援に、頑張るぞー!と気合いを入れるとラギは不機嫌そうに眉をしかめた。


「……ったく、どいつもこいつも魔法魔法って必死になりやがって」

「え?ラギだって私みたいに魔法使いになりたくて、ミルス・クレアに入ったんじゃないの?」

「はあ?俺はこれっぽっちも、魔法使いになりたいなんざ思わねーぞ」


ラギは変身体質の原因究明と治療のためにミルス・クレアにいるらしい。
ハーフドラゴンという奇異な身体は、変身体質だけでなく魔法も扱えないのだという。
その代わり魔法耐性というものがあり、大抵の魔法が効かないという体質を持っている、とビラールが説明してくれた。
ミルス・クレアは世界各国から人が集まる場所だからラギのような変わり種も多いらしい。


「すごいなあ、ミルス・クレアにはいろんな人がいるのね!」

「ビラールだって人のこと言えんのかよ。てめえこそ魔法を認めねー国から留学してきてる人間じゃねーか」


ビラールの祖国、ファランバルドでは魔法を認められていない国で、ビラールが留学を決めた時は家族から猛反対されたらしい。
だけど、ビラールは水不足に悩むファランバルドにとって魔法は助けになると信じて魔法を学んでいるのだと言う。


「ラギも、ビラールも、みんな大変なんだね……」


私も数十年に1人しかいないとか言われている無属性なんだけど………みんなも大変なんだなって改めて思う。
アミィやルミアも何かしら問題を抱えてたりするのかな、と考えてふと昨日のエストとの会話を思い出した。


昨日はあんまりエストからルミアのこと詳しく教えてもらえなかったけど、ラギなら何か知ってるかな?
アルバロがラギとエストとは喋るって言っていたのもなんかひっかかるし……。


「そういえば、ラギってルミアとお友達なの?」

「ハイ。ラギとルミアはとっても仲良しデス」

「あ?別にそんなでもねーだろ。つか、なんでいきなりんなこと聞くんだよ」

「前にアルバロがルミアはラギとエスト以外の人と喋るのは珍しいって言ってたから……なんだか気になっちゃったの」


私が言うと2人は納得といった顔をする。


「あぁ、あいつは俺とエスト以外とは極力関わらないようにしてるな。ビラールにでさえ口きかねーし」

「えぇ?!ビラールこんなに優しくていい人なのに?」


私はいきなりのカミングアウトに声を裏返してしまう。
ルミアもアミィみたく人見知りしちゃう子かなって思っていたけど、ビラールとも話せないのは意外だった。


「あいつは別にしたくて喋んないんじゃねー。喋りたくても喋れねーんだよ」

「……え?でも、ルミアはちゃんと喋れるわよ?確かに、口下手みたいなところもあるけれど――――」

「ちげーよ!だから、そういうことじゃねーんだよ!!」

「きゃっ?!!」


ラギはテーブルを両手で叩き身を乗り出して怒鳴る。
私は思わず身を固くして短い悲鳴をあげてしまった。


「落ち着くデス、ラギ。ルルに当たってはいけないデス」

「っ……悪かったな」

「う、ううん!私もごめんね。ねぇ、その話もしよかったら詳しく教えてもらってもいいかな?」


私の言葉にラギは顔をしかめたまま黙り、ビラールは何か考えたように口元に手を当てるが、私に向かって頷いた。


「……言霊、という言葉をアナタは知っていますカ?」

「コトダマ……?」

「ワタシの祖国、ファランバルドでは昔から言葉には魂が宿ると言われていマス。だから言葉を大事にしてるデス。良い言葉は良いものを招き、悪い言葉は災いを招ク……。あまり人をとぼしたり悪口ばかり言うと、自分に悪いことが返って来ると言われていマス。力ある負の言葉は呪い……それを跳ね返されれば呪いは本人に返ル。デスから、言葉はとても大切デス」

「へえ、はじめて知ったわ。言霊ってすごいのね。でもそれがルミアとどう関係しているの?」


私が首を傾げているとラギがはあ?と呆れた声をあげる。


「この流れだとフツーわかるだろ……。ルミアの話す言葉は言霊になってんだよ」

「えっ……?」

「だからあいつはむやみやたらと喋らないんだ。人と進んで関わろうとしないのも、自分が言葉を話すのを避けるためだ」

「彼女は自分の意志で言霊を使っているワケではないのデス。無意識……彼女の体質がそうさせているのデス」

「エストのやつはどういうわけだか知らねーけど、俺の場合は魔法耐性が他のやつらより強いからアイツの言霊は効かねーんだ」


エストが言っていたことって当たってたんだ……。
ラギには強い魔法耐性があるから普通に話せてられるけど、普通の人間はルミアの言霊にかかってしまう。
そんな事情があったのね……。


「そうだったんだ…………。ん?でも私、ルミアと普通に話しているけど何も起こってないよ?」

「んなもん知るかよ。つーか、なんでお前とルミアが知り合ってんのかすら俺にしたらすっげー謎だな」

「確かニ、彼女は進んで人と話したがりまセン。アナタと彼女が友達だというのはチョット、驚きましタ」

「そうかな……?ルミアと出会ったのは、私が編入する時にイヴァン先生とヴァニア先生に紹介されて友達になったの!」


その時のことを思い出してふふっと笑みを零すと、ラギは訝しげに私を見る。


「あいつらから紹介って……なんでだよ」

「ヴァニア先生はルミアが私と同じ無属性だからって、私のサポート役としてルミアを紹介してくれたの」

「ルミアが無属性……?それは本当ですカ?」

「…?えぇ、本当よ。無属性同士だからお互いなにかしら得ることがあるんじゃないかって言われたんだけど……。あ、でもルミアは私と違って律が歪むことがないってイヴァン先生が言ってたわ」


ビラールとラギは驚いたような、意外そうな表情をしてお互い目を合わせる。
しかし、それも一瞬ですぐに私に視線を向けた。
私、何かおかしいことでも言ったかな……?


「……まぁ、もしかしたらお前が無属性だから大丈夫だったんじゃねーの?とりあえず、お前あいつと喋ってても平気なんだろ?」

「うん、全然平気!……でもルミア、いつも何かに怯えているような感じがするのよね…………。二人とも教えてくれてありがとう!」

「イエ、どういたしましテ」

「別に。アイツのこと変に誤解してるみてーだから言っただけだ」


フン、と顔を背けて食べかけのパテルキブスをかじるラギの様子に、ビラールはにこにこと微笑む。
言葉が厳しいけどラギなりの感謝の言葉なのかな、なんて思いながらビラールにつられて私も笑顔になる。


「ラギはルミアのことをとても大事にしてマス。デスからルル、あなたにルミアともっと仲良くしてほしいとラギは思っているデス」

「わかったわ!任せて、ラギ、ビラール!私ももっとルミアと仲良くなりたいもの!」

「何がわかったんだよ、勝手に人のこと誤解してんじゃねー!」


くすくすと笑いながら、いろんな話をできたランチの時間はすごく楽しいものになったと思う。
ランチを食べ終わり、2人と別れた私は、またラティウムの探索を再開するためゆっくりと街を歩き出した。


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