「 5 」
それから5カ月後。
そんなアルスの注意が。
また、別の人間に持っていかれそうになっていた。
「なにやら、アルス殿は、あのおなごに一目惚れをしたようであるな」
お酒を飲みほろよい気分のメルビンにそう言われ、ガボはメルビンの目線の先を確認する。
つややかな長い黒髪の、美しい女性。
目鼻立ちのくっきりとした、凛々しげな相貌。
女性らしいというよりも、凛々しさのほうがまず印象深い、ユバールの踊り手。
半年振りに訪れた、ユバール族の休息地にて。
あれから何百年も経っているにも関わらず、テントの位置などは完全に昔のままだった。
…あの、アルスを変えてしまった離別の時のまま。
テントを見つけた時、心をえぐられる様な衝撃を受けた。周囲に流れるトゥーラのノスタルジックなメロディー。静かな夜に、そのユバール特有のトゥーラの音が響き渡っている。…何もかもがあの日と同じ。アルスの心の大部分を占めていた親友がアルスを捨てた日と、おなじ。
当時の事と痛々しいアルスの様子を鮮明に思い出し、ガボは胸を抑えた。
(キーファの事を知らないメルビンはのんきに「なにやらいいメロディでござるな…、おいしそうな酒の匂いもする」と呟いている。)
ガボがこんなにトラウマを刺激されたのだから、いわんやアルスをば、というものだ。
ちらり、とアルスを見てみると。
彼は目を大きく開け、呆然と休息地を見ていた。魂が抜けたように。
そのまま走りだし、何かを探すように次々とテントの中に入って行った。
そして。
一番最後のテント。一番大きなテントの中に入って行ったアルスがなかなか戻ってこないので、メルビンとふたりで様子を見に行ったら。
彼は、信じられないものを見るような眼で、ある女性をみつめていた。
神の力を宿す聖なる衣を身にまとい、艶やかな長髪をなびかせながら、壇上で踊る、美女。
そんな彼女を食い入るように見つめるアルス。
まるで。
――過去の世界での、あの時、キーファがライラさんを初めて見たときのようだ。
キーファも、こんなふうに、まるですっかり魅了されてしまったように、彼女を見つめていた。
あの時のキーファと今のアルスが、ダブって見えた。
――だめだ!
「アルス、」
呼びかけ、袖口を引っ張るが、
アルスは気付かない。
視線も意識も…心も、すべて彼女に盗られてしまっているようだった。
ガボのことは全く気付いていない。存在を認められていない。
本能的な危機感を覚えた。
思わず本能のままアルスに噛みつこうとしたら、メルビンに止められた。「あんな美しい人を目の前にしたら、若い男であるアルス殿があんな風になるのは普通なことなのじゃよ」と言われた。
そして、どこからか手に入れてきたらしい酒を片手に、彼はしたり顔でこうつぶやいたのだ。「なにやら、アルス殿は、あのおなごに一目惚れをしたようであるな。」
そんなアルスの注意が。
また、別の人間に持っていかれそうになっていた。
「なにやら、アルス殿は、あのおなごに一目惚れをしたようであるな」
お酒を飲みほろよい気分のメルビンにそう言われ、ガボはメルビンの目線の先を確認する。
つややかな長い黒髪の、美しい女性。
目鼻立ちのくっきりとした、凛々しげな相貌。
女性らしいというよりも、凛々しさのほうがまず印象深い、ユバールの踊り手。
半年振りに訪れた、ユバール族の休息地にて。
あれから何百年も経っているにも関わらず、テントの位置などは完全に昔のままだった。
…あの、アルスを変えてしまった離別の時のまま。
テントを見つけた時、心をえぐられる様な衝撃を受けた。周囲に流れるトゥーラのノスタルジックなメロディー。静かな夜に、そのユバール特有のトゥーラの音が響き渡っている。…何もかもがあの日と同じ。アルスの心の大部分を占めていた親友がアルスを捨てた日と、おなじ。
当時の事と痛々しいアルスの様子を鮮明に思い出し、ガボは胸を抑えた。
(キーファの事を知らないメルビンはのんきに「なにやらいいメロディでござるな…、おいしそうな酒の匂いもする」と呟いている。)
ガボがこんなにトラウマを刺激されたのだから、いわんやアルスをば、というものだ。
ちらり、とアルスを見てみると。
彼は目を大きく開け、呆然と休息地を見ていた。魂が抜けたように。
そのまま走りだし、何かを探すように次々とテントの中に入って行った。
そして。
一番最後のテント。一番大きなテントの中に入って行ったアルスがなかなか戻ってこないので、メルビンとふたりで様子を見に行ったら。
彼は、信じられないものを見るような眼で、ある女性をみつめていた。
神の力を宿す聖なる衣を身にまとい、艶やかな長髪をなびかせながら、壇上で踊る、美女。
そんな彼女を食い入るように見つめるアルス。
まるで。
――過去の世界での、あの時、キーファがライラさんを初めて見たときのようだ。
キーファも、こんなふうに、まるですっかり魅了されてしまったように、彼女を見つめていた。
あの時のキーファと今のアルスが、ダブって見えた。
――だめだ!
「アルス、」
呼びかけ、袖口を引っ張るが、
アルスは気付かない。
視線も意識も…心も、すべて彼女に盗られてしまっているようだった。
ガボのことは全く気付いていない。存在を認められていない。
本能的な危機感を覚えた。
思わず本能のままアルスに噛みつこうとしたら、メルビンに止められた。「あんな美しい人を目の前にしたら、若い男であるアルス殿があんな風になるのは普通なことなのじゃよ」と言われた。
そして、どこからか手に入れてきたらしい酒を片手に、彼はしたり顔でこうつぶやいたのだ。「なにやら、アルス殿は、あのおなごに一目惚れをしたようであるな。」