「 3  」

 半年前。
 キーファが離脱した。
 今にも泣き出しそうな、無理やり貼り付けた笑顔で、彼を見送ったアルス。
 なかば押し込められるようにして旅の扉をくぐり、現代の世界に戻った後も、アルスは心が壊れてしまったような様子だった。
 どうしてキーファを引き止めなかったのか不思議で仕方無かった。
 そんなに悲しむなら、あの時、死ぬ気で止めればよかったんだ。
 変に大人ぶって、理解者ぶって、いさぎよく身を引くなんて、理解できない。
 ガボはつねに本能のまま行動していたので、もし自分がアルスだったら、噛みついてでもなんでも親友を引き止めただろうと思った。

 キーファがいなくなってからしばらく、屍のようになったアルス。
 いつも上の空で、こちらが話しかけても気づかない。
 マリベルが苛々しながら「アルス!」と耳を引っ張って、ようやく「え、あ、なに?」と答える。
 そんな様子が約一ヶ月続いた。
 キーファとの離別が響いているらしく、心に余裕がないようで、ガボにかまってくれなくなった。わざと汚く食事してみても、注意をしてくれない。フォークの握り方を直してくれない。
 魂を抜かれた人間のように。
 人形のように。
 ぼうっとしている。
 ――まるで、アルスのこころがキーファに持ってかれちまったようだ。
 本当に、痛々しい様子だった。
 最初は「しっかりしなさいよね!」「いちいち悲観的になって、いい加減うざいのよ!」と叱っていたマリベルも、もう何も言わなくなった。言えなくなった。どんなに怒声を飛ばしても、もう、以前のように、困ったように笑いかけてくれることがなくなってしまったから。さすがに可哀そうになって、何も言えなくなった。
 彼は、ただ、別れた親友との約束の通り、世界を解放する旅を続けるだけだった。作業的に。機械的に。石板を集め、過去へ行き、住民の話を聞き、魔物を倒す。そこには何の感動も無い。冒険心も無い。ただ、約束を果たすという、親友との唯一の繋がりを必死に守っているようだった。旅を続ける限り、キーファと繋がっている、と。
 
 オイラなら、アルスにこんな思いはさせないのに。

 悲しませないのに。
 最初に約束した通り、ずっと一緒にいてやるのに。
 キーファ。お前は、親友よりも、自分の使命のほうが大切なのか?
 親友が、こんな生きる屍みたいな状態になっても、平気なのか?
 オイラには理解できないよ。頭良くないからな。

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