「 2 」

*内海裕也目線
―――――――

 噂の転校生は、金髪碧眼の美青年だった。
 まあ、あれだ。モロ、狐空さん。あの木の葉の暗部総隊長様がおれの隣の席で授業を受けていらっしゃる…! シュールすぎるぜ…。
 素の姿のままだとどう見ても中学生なので、高等部に転校してくるのは無理だ。だから17歳くらいの姿に変化して、編入した。

 そう。そもそも、うずまきは年齢的に中学1年生のはずだ。
 この見知らぬ世界で居場所がないのはつらいだろうから、元の世界に戻れる手立てが見つかるまででもおれの学園にいなよ、と言った。おれは理事長とコネクションがあるのでなんとでもできる。だからおれはこの学園(中等部から高等部までの一貫校だ)の中等部への入学を勧めた。全寮制なので住む場所にも困らないし、中等部でこの世界の勉強もできる。
 しかしうずまきは断った。
 彼はおれをその青色の目でまっすぐ見据えながらこう言った。
「内海、そのチュウトウブとやらにはお前はいないんだろ?」
「うん。あんたは13歳、おれは17歳だからね。あんたは中学、おれは高校なの。」おれはニヤリと笑い、自分の下の位置にある彼の鼻先を指でつついた。「お子さまは中学校なんですー。この世界は平和だし、おれが何でも用意してやるから、勝手に生活して、同年代の友達を作りなさい。あんたは中等部、おれは高等部。校舎はそんな遠くないし、いいね? わかった?」
 すると彼は眉間にしわを寄せ不快の意を表情に現わし、しかし何を思いついたのかすぐに悪戯げに微笑み、おれの服の裾を掴んできた。上目遣いで、表の顔(ドベ時の演技)の仮面をかぶって。いつもの明るいうずまきナルトみたいに、太陽のような笑顔で言ってくる。「でも、この知らない世界に放り出されて右も左も分からない俺を中学校とかいう機関に丸投げし責任放棄して勝手に背中の荷物軽くしたあげく、一人でもとの生活に戻り悠悠自適に暮らすなんて鬼畜なこと裕也兄ちゃんはしないってばよね?」
 おいおいドべなナルトがそんな長ったらしい台詞を一息で言えるわけないだろうがと思うが、この有無を言わさぬ眩しい笑顔で「俺は裕也兄ちゃんを信じてるってばよ!」と明るく言われてしまっては、年長者たるおれが折れるしかなかった。「やれやれ、そんなこと言われちゃ仕方ねぇな」と。

 おれとしては。
 この世界に来たら、もううずまきのことを知る人間はいないわけだから、もう彼は仮面をかぶって生活することもない。
 そしたら素の自分でいられる。強さを隠す必要が無くなり、仮面をかぶる必要もなくなるわけだから。
 だから、その素の自分を受け入れてくれる同年代の友達を作ってほしかった。同じ12・13歳の。

 自室のベッドに、ごろりと仰向けに横になる。
「高等部に来るんじゃ、あんた、同年代の友達、作れないぜ?」
 電気の光が遮られ、影ができる。
 うずまきが上からおれを見おろしている。
「別に欲しくねぇからな」
「だめだ。あんたには必要なんだよ」
「いや、」彼は目を細めた。瞳の蒼が深くなる。真剣な声音。「お前だけでいい。内海」

 おれは苦笑した。
 仰向けのままうずまきへ両手をのばすと、彼がその手を取ってきた。そのまま指をからめる。「それじゃあ元の世界にいた時と同じだろが。だめだよ、うずまき。あんたには、せめてこの世界では、普通の子どもとして育ってほしいんだ。」
「『普通』って何?」
 素早い切り返しだった。彼は表情を変えずに言ってきた。
 少し考えてから、おれは答える。
「あんたみたいに、殺しとか人を傷つけるすべとかを知らないで育つ子どもさ。同年代の子どもたちと一緒に学び、遊び、友情を育むんだ。そんな暖かな環境で、あんたには育ってほしいんだ」
「それはもう無理だ。俺は既に知り過ぎている。第一、」絡めた手を強く握られた。彼の小さな手がおれの手を抑え込む。
 手を握ったまま、彼はおれに少し顔を近づけてきた。彼の顔で天井の電気が完全に見えなくなる。暗い。近くで彼の深い瞳を見る。そのカデットブルーの中に、ベッドに横たわるおれの顔が映っていた。
 うずまきの唇が動く。「よく言うぜ。その定義でいくと、あんたも普通じゃあないだろう、内海。」
 その通りだった。
「普通じゃない奴に普通になれって言われても、無理があるだろう」
「いや、うずまき、だからこそあんたには普通に育ってほしいんだ」
「もう無理なんだよ、裕也、」
 名前を呼ばれたと思ったら、そのまま顔がもっと近づいて、唇と唇が触れた。その唇が笑みの形に歪む。
「だって、こういうのも、普通じゃないんだろ?」


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