「 2 」
里を一面濡らしてゆく雨を見ていた。
鉛色の空から槍のように降ってくる雨は、ザーザーと大きな音を立て、地面や建物にぶつかる。土色だった地面はまたたく間に黒くなり、たくさんいた人々は一気に掃け、建物内に避難した。
誰もいなくなった里を、狐空――暗部姿のナルト――は、火影岩の上から眺めていた。
彼はよくこの場所に来ていた。
なにか心が落ち着かないとき、里を一望できる火影岩の上で、彼は眼下の里を眺めるのが習慣だった。――憎むべき里を。
とくに何の感情もなく、彼は里を眺める。雨の日も、風の日も、気が向いたら来る。
心が不安定なとき、この四代目の岩の上に座り、里への憎しみを考えると、不思議と落ち着くからだ。
里への憎悪で静かに心を満たすことにより、彼の心の均衡は満たされた。
雨で真っ黒に染まる里を眺める狐空は、ある少年のことを考えていた。
柔らかな茶色の髪の、甘い少年。優しげな微笑み。
内海裕也。
「うずまき、」と己を呼ぶ声は蜂蜜のように甘い。
思い出し、狐空は舌打ちした。
狐空は彼が嫌いだった。
心の平穏を乱す彼が大嫌いだった。
九尾や里の事情など何も知らないくせに、図々しくも、ナルトを守りたいだのとあまっちょろいことをぬかす。
――助けを求めるなど、もう、とうの昔に諦めた。
誰も助けてくれなかったから、ナルトは強くなったのだ。誰も守ってくれなかったから、自分が強くならざるを得なかった。
それに。
フラッシュバックする、地下牢での出来事。
突然倒れた彼は、今、シカマルのもとにいる。彼は奈良家全体で匿われているらしく、最後に会ったあの日からもう一ヶ月が経った。
一ヶ月間、顔を見ていない。
勝手に傷付けられた上に、さらに、今はまた別の人間の手の元に渡っている。
――俺に惹かれているだの惚れてるだの言いながら、もう俺に飽きて、今度はシカマルにくら替えか?
口だけのクズ野郎だ。
守るとか大きなことを言いながら、蓋を開けてみれば、たった1週間足らずで俺に飽きた。本当にクズ野郎だ。
――この里は、本当に、嘘だらけだ。
信じちゃいけない。
信じて裏切られるほうがつらいから。
それに、この世界には、信じる価値のあるものは何もない。
わかっていたことじゃないのか?
里を覆う重い空。厚い雲から槍のように降ってくる雨。
ふと、気付くと、その雨に打たれながら己のもとへに飛んでくる鳥がいる。
狐空専用の忍鳥だ。
火影が狐空に任務を寄越すときに飛ばされる。
手を伸ばすと、
その、雨風になぶられつつ飛んできた忍鳥が、狐空の手にとまる。紙をくわえている。任務書。
それを受け取り、サッと目を通した狐空の顔が、しかめられる。
「――来週の任務から、ツーマンセルを組ませる、だと…?」
あのジジイ、何考えていやがる。
おれに、他人と一緒に任務をやれ、ということか? おれが他人を一切信じられないのを知ってて、なぜ? 他人に背中を預けるなんて、絶対に無理だ。
――今日はイライラさせられることばかりだぜ。
任務書をクシャリと握り締め、青い炎で燃やし、消滅させる。
炯炯たる光を宿した蒼い目を、仮面の下に隠し、狐空は火影室へと瞬身の術で消えた。
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鉛色の空から槍のように降ってくる雨は、ザーザーと大きな音を立て、地面や建物にぶつかる。土色だった地面はまたたく間に黒くなり、たくさんいた人々は一気に掃け、建物内に避難した。
誰もいなくなった里を、狐空――暗部姿のナルト――は、火影岩の上から眺めていた。
彼はよくこの場所に来ていた。
なにか心が落ち着かないとき、里を一望できる火影岩の上で、彼は眼下の里を眺めるのが習慣だった。――憎むべき里を。
とくに何の感情もなく、彼は里を眺める。雨の日も、風の日も、気が向いたら来る。
心が不安定なとき、この四代目の岩の上に座り、里への憎しみを考えると、不思議と落ち着くからだ。
里への憎悪で静かに心を満たすことにより、彼の心の均衡は満たされた。
雨で真っ黒に染まる里を眺める狐空は、ある少年のことを考えていた。
柔らかな茶色の髪の、甘い少年。優しげな微笑み。
内海裕也。
「うずまき、」と己を呼ぶ声は蜂蜜のように甘い。
思い出し、狐空は舌打ちした。
狐空は彼が嫌いだった。
心の平穏を乱す彼が大嫌いだった。
九尾や里の事情など何も知らないくせに、図々しくも、ナルトを守りたいだのとあまっちょろいことをぬかす。
――助けを求めるなど、もう、とうの昔に諦めた。
誰も助けてくれなかったから、ナルトは強くなったのだ。誰も守ってくれなかったから、自分が強くならざるを得なかった。
それに。
フラッシュバックする、地下牢での出来事。
突然倒れた彼は、今、シカマルのもとにいる。彼は奈良家全体で匿われているらしく、最後に会ったあの日からもう一ヶ月が経った。
一ヶ月間、顔を見ていない。
勝手に傷付けられた上に、さらに、今はまた別の人間の手の元に渡っている。
――俺に惹かれているだの惚れてるだの言いながら、もう俺に飽きて、今度はシカマルにくら替えか?
口だけのクズ野郎だ。
守るとか大きなことを言いながら、蓋を開けてみれば、たった1週間足らずで俺に飽きた。本当にクズ野郎だ。
――この里は、本当に、嘘だらけだ。
信じちゃいけない。
信じて裏切られるほうがつらいから。
それに、この世界には、信じる価値のあるものは何もない。
わかっていたことじゃないのか?
里を覆う重い空。厚い雲から槍のように降ってくる雨。
ふと、気付くと、その雨に打たれながら己のもとへに飛んでくる鳥がいる。
狐空専用の忍鳥だ。
火影が狐空に任務を寄越すときに飛ばされる。
手を伸ばすと、
その、雨風になぶられつつ飛んできた忍鳥が、狐空の手にとまる。紙をくわえている。任務書。
それを受け取り、サッと目を通した狐空の顔が、しかめられる。
「――来週の任務から、ツーマンセルを組ませる、だと…?」
あのジジイ、何考えていやがる。
おれに、他人と一緒に任務をやれ、ということか? おれが他人を一切信じられないのを知ってて、なぜ? 他人に背中を預けるなんて、絶対に無理だ。
――今日はイライラさせられることばかりだぜ。
任務書をクシャリと握り締め、青い炎で燃やし、消滅させる。
炯炯たる光を宿した蒼い目を、仮面の下に隠し、狐空は火影室へと瞬身の術で消えた。
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