「 家庭訪問1 」

家庭訪問




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 *イルカ先生視点

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 教員を続けていると、もちろんストレスもあるが、それよりも生徒の成長を実感できるという喜びの方が大きい。
 
 ちょっと前までマトモに言うことを聞いてくれなかった生徒が、今では明るく「先生、おはようございます!」と挨拶してくれたりする。
 おれは、子どもたちの人生に影響を与えているんだ。
 そういった自負が、ますますおれの使命感を燃えさせていた。

 子どもの思春期というのは、今後の人生の自我形成に於いて多大な影響を持つ時期だ。大切な時期。だから、その重要な時期にいる彼らを、おれは導いてやらなければならない。
 迷っている子には、おれが正しい道を提示してやる。
 困っている子には、話を聞いてやってから、一緒に解決に導いてやる。

 ――しかし…。

 授業中。
 教科書を音読しながら、ふと、教室を見渡す。
 真剣にノートを取っている生徒たちが視界に映る。ナルトとキバは寝ているが。
 普段通りの光景。

 ある一点を除いては。

 ――シカマル…。もう今日で一ヶ月だぞ…。

 あの日。
 内海裕也と名乗る美しい少年に出会った日。

 そして、
 いつも落ちついていた(というかジジくさかった)シカマルが、入学以来初めて調子を崩していた日。

 心底悩んでいたらしい彼に話を聞いてみると、どうやら、
 屋上で出会った、笑顔の可愛い、いい匂いのする、少女、とやらに、一目惚れしたらしい。

 しかし自分が一目惚れしたことに気付いていない彼は、悩んでいた。

 初恋を知った少年、奈良シカマル…か! 可愛い! と、あの日は歓喜したものだ。



 ――でも、翌日から、彼は姿を消した。

 翌日、彼はアカデミーに来なかった。次の日も。その次の日も。
 奈良家に電話し保護者に聞いてみるが「うちのシカマルは、ちょっと体調を崩しておりまして…」の一点張り。
 最初は信じていた。
 どんな難病なんだと心配していた。何週間もずっと病に伏せている、と。お見舞いに行こうと思ったが「感染性なので」と断られた。

 ずっと、ただただ心配していたのだが、でも、ある日、ナルトによって、俺の心配は、全く別の心配へと移ることになる。
 今朝、彼が、「元気に歩いているシカマルを昨日見たってばよ!」と、ご丁寧に証拠写真まで見せてきたのだ。
 たしかにそこには、普通に、外を歩いているシカマルが映っている。背後に映っている商店街の店に「月末大セール!9月」と書いてあることから、ちょうど昨日撮られたものだと分かる。(今日は10月1日だ。)

「ズル休みズルイってばよー! 仮病だってばよ!」と騒ぐナルトを遠くに感じながら、俺の頭は焦燥に襲われた。
 ――どういうことだ。
 シカマルは病気ではない。
 なのに、病気ということで、一ヶ月もアカデミーに来ていない。
 しかもただサボるだけの口実だとは思えない。本人が病気だと主張しているならまだしも、彼が病気だと電話口で言ったのは、彼の両親だ。両親が嘘をついている。

 つまり。
 シカマルは、今、一族ぐるみで、かくまわれている。

 ただならぬ事態である…、と、シカマルの空いた席を眺めながら思う。俺がどうにかしないと。いや、一族の問題だろうし、俺ごときがどうにかできなくても、せめて、担任教師として、事情を把握するくらいはするべきだろう。

 あの子が初めて俺を頼ってくれたんだ。
 初めて、大人を頼ったんだろう。
 ――最後まで面倒見てやる。

 なかば上の空で授業を続けながら、おれは、今日シカマルの家に家庭訪問することに決めた。

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