「 8 シカマルと狐空の邂逅 」
*狐空目線
――――
それは突然だった。
突然、内海裕也の意識が失われ、彼は崩れた。
ドサリ、と大きな音を立て、彼は無防備に床に倒れた。
無機質な冷たい石の床に散らばる、柔らかなハニーブラウンの髪。
「おい、内海、」
声をかけ、上体を起こしてやる。反応は無い。
ペチペチと頬を叩いてみる。やはり反応は無い。
完全に気を失っている。
何の表情も載せずに眼を閉じている彼。もともと白かった彼の肌は土気色になっており、なまじ顔が整っているので、生気の感じられない彼はまるでよくできた人形のようだ。美しく精巧な人形。
それに。
――おかしい。
狐空の顔が青ざめる。
誰よりもチャクラの扱いに長けている彼は、内海のチャクラの流れが止まっていることに気付いた。
誰でも、身体の中をチャクラが巡っている。
それを自由に扱えて術に変換できるのが忍びであって、できないのが一般人。
つまり、忍術の使えない一般人の身体にもチャクラがある。生命を維持するのに絶対に必要なものだからだ。
すなわち、チャクラの流れが止まると、人は死んでしまう。
――おいおい、どういうことだ、
狼狽する。
殺人を専門とし、本能のまま暗殺術のみに特化した狐空は、医療忍術には疎い。
驚異的な再生力を持つ九尾の力を借りて、傷ついた身体の細胞の再生などはできるが、医療の『知識』は無い。
こんな、突然何の前触れも無くチャクラの流れが止まって死ぬ寸前、なんて、本当に、何が何だか分からない。
おれは、ちからはあるが、知識がない。
つまり、どうすればいいのか分からない。
「クソッ!」
――他人の手に渡すのは嫌だが、やむを得ない。医療班に引き渡すか。
舌打ちをする。
本当は、医療班には渡したくない。彼らは女性が多く、詮索好きなのだ。「治療に関わる」と言って根掘り葉掘り聞いてくる。だから嫌いだ。なので狐空は一度医療班で不愉快な思いをして以来一度も訪れていない。
幻の暗部総隊長が連れてきた、戸籍も無い『存在しないはずの』謎の少年。そんな彼が注目を浴びることは目に見えていた。ますます内海の立ち位置は厳しいものとなり、狐空の知らない処でまたトラブルに巻き込まれるだろう。
狐空は唇をかむ。
――しかし、やむ得ない。
このまま放置すれば死んでしまう。気が進まないが、専門家のところへ連れて行くしかない。
結界を解く。
ぐにゃりと一瞬景色が歪み、すぐにまた同じ景色に戻る。暗鬱とした血生臭い地下牢。
結界を張っていたときは周りの人間からは見えなかったが、今は結界が無いので周りの人間から見られる。結界の外に出たのに、内海を一刻も早く医療班へ運ぶことで頭がいっぱいで、狐空は暗部面をつけるのを忘れていた。まあこんなところに普段人は来ないので問題ではないかもしれないが。
瞬身の術で医療班へ行こうと、内海を抱きかかえ、印を組む。
その時だった。
「おい! お前、待て!」
焦った少年の声。
聞き慣れた声に、思わずそちらへ視線を遣ってしまう。
狐空の眼の先には、脚を引きずりながらこちらへ歩み寄ってくる、長い黒髪を高い位置できつく結わえた少年。
額に汗を滲ませながら、苦しそうに歩いてくる彼は、狐空の護衛対象であり表の自分のクラスメイトでもある、奈良シカマルだった。(狐空は、名家の子どもたちがアカデミーに入学した瞬間から、彼らの護衛任務という長期任務を課せられていた。)
彼の眼は、狐空の腕の中の内海に向いていた。
狐空はうろんげに眼を細めた。
内海を隠すように抱き直し、冷たい声を出す。
「ここはお前のようなアカデミー生ふぜいが迷子になっていい場所じゃない。ガキはおうちへ帰りな」
そう吐き捨て瞬身の術で消えようとした瞬間。
切羽詰まったシカマルの声。
「待て! ナルト!」
印を組んだ手を止めた。
――――
それは突然だった。
突然、内海裕也の意識が失われ、彼は崩れた。
ドサリ、と大きな音を立て、彼は無防備に床に倒れた。
無機質な冷たい石の床に散らばる、柔らかなハニーブラウンの髪。
「おい、内海、」
声をかけ、上体を起こしてやる。反応は無い。
ペチペチと頬を叩いてみる。やはり反応は無い。
完全に気を失っている。
何の表情も載せずに眼を閉じている彼。もともと白かった彼の肌は土気色になっており、なまじ顔が整っているので、生気の感じられない彼はまるでよくできた人形のようだ。美しく精巧な人形。
それに。
――おかしい。
狐空の顔が青ざめる。
誰よりもチャクラの扱いに長けている彼は、内海のチャクラの流れが止まっていることに気付いた。
誰でも、身体の中をチャクラが巡っている。
それを自由に扱えて術に変換できるのが忍びであって、できないのが一般人。
つまり、忍術の使えない一般人の身体にもチャクラがある。生命を維持するのに絶対に必要なものだからだ。
すなわち、チャクラの流れが止まると、人は死んでしまう。
――おいおい、どういうことだ、
狼狽する。
殺人を専門とし、本能のまま暗殺術のみに特化した狐空は、医療忍術には疎い。
驚異的な再生力を持つ九尾の力を借りて、傷ついた身体の細胞の再生などはできるが、医療の『知識』は無い。
こんな、突然何の前触れも無くチャクラの流れが止まって死ぬ寸前、なんて、本当に、何が何だか分からない。
おれは、ちからはあるが、知識がない。
つまり、どうすればいいのか分からない。
「クソッ!」
――他人の手に渡すのは嫌だが、やむを得ない。医療班に引き渡すか。
舌打ちをする。
本当は、医療班には渡したくない。彼らは女性が多く、詮索好きなのだ。「治療に関わる」と言って根掘り葉掘り聞いてくる。だから嫌いだ。なので狐空は一度医療班で不愉快な思いをして以来一度も訪れていない。
幻の暗部総隊長が連れてきた、戸籍も無い『存在しないはずの』謎の少年。そんな彼が注目を浴びることは目に見えていた。ますます内海の立ち位置は厳しいものとなり、狐空の知らない処でまたトラブルに巻き込まれるだろう。
狐空は唇をかむ。
――しかし、やむ得ない。
このまま放置すれば死んでしまう。気が進まないが、専門家のところへ連れて行くしかない。
結界を解く。
ぐにゃりと一瞬景色が歪み、すぐにまた同じ景色に戻る。暗鬱とした血生臭い地下牢。
結界を張っていたときは周りの人間からは見えなかったが、今は結界が無いので周りの人間から見られる。結界の外に出たのに、内海を一刻も早く医療班へ運ぶことで頭がいっぱいで、狐空は暗部面をつけるのを忘れていた。まあこんなところに普段人は来ないので問題ではないかもしれないが。
瞬身の術で医療班へ行こうと、内海を抱きかかえ、印を組む。
その時だった。
「おい! お前、待て!」
焦った少年の声。
聞き慣れた声に、思わずそちらへ視線を遣ってしまう。
狐空の眼の先には、脚を引きずりながらこちらへ歩み寄ってくる、長い黒髪を高い位置できつく結わえた少年。
額に汗を滲ませながら、苦しそうに歩いてくる彼は、狐空の護衛対象であり表の自分のクラスメイトでもある、奈良シカマルだった。(狐空は、名家の子どもたちがアカデミーに入学した瞬間から、彼らの護衛任務という長期任務を課せられていた。)
彼の眼は、狐空の腕の中の内海に向いていた。
狐空はうろんげに眼を細めた。
内海を隠すように抱き直し、冷たい声を出す。
「ここはお前のようなアカデミー生ふぜいが迷子になっていい場所じゃない。ガキはおうちへ帰りな」
そう吐き捨て瞬身の術で消えようとした瞬間。
切羽詰まったシカマルの声。
「待て! ナルト!」
印を組んだ手を止めた。