「 7 」

 しかし、狐空に睨まれながらも、裕也はヘラリと笑う。
「やだなあ、おれはあんたに惚れてるんで、それはできない相談ですよ」

 直後。
 裕也の華奢な体は吹っ飛んでいた。
 派手な音を立て、細い身体が石壁にぶつかり、そのままぐったりと地面に倒れる。カハッと血を吐く。殴られた頬を押さえる。さっき治してもらったその場所は、また痛々しい青痣がこさえてあった。
 頬を押さえ、片方の手を地面についたまま、狐空を見上げた。

 腕を組み、平然と立ち、今自分が思い切りぶん殴った少年を、何の表情も載せず見下す狐空。
 一方、地面につくばったまま、痛みに堪えつつ狐空を見上げる裕也。

 頬を殴られ、口内が切れてしまった。口の中に広がる血の味。鉄の味。
 発狂しそうなほどの頬の痛み。狐空の細腕のどこにこんな力があるのか分からない。続いて、脳みそが揺れる。ぐらぐらする。頭蓋骨の中で本当に揺れてるみたいだ。吐き気がする。イビキの時よりも痛いしツラい。

 先に動いたのは狐空だった。
 裕也の側へ歩いてゆき、しゃがみ込む。
 痛みと気持ち悪さで何も言えず、無抵抗な裕也のあごに手をかけ、クイと持ち上げる。
 目の高さが合う。
 苦痛に歪む裕也の顔を無感動に見ながら、狐空は口を開いた。
「痛いか?」
 裕也は声なく弱々しく頷く。それを見て、狐空も一人「だろうな。痛くしたんだから」と返事した。

 また彼は裕也に声をかけた。
「上書き。」
「……?」
「俺は上書きしたの。内海裕也、お前、今自分がなんで殴られたか分かってないだろ?」狐空の手が伸びる。また頬を滑る。「俺は上書きしたんだよ。イビキに付けられた痕を消して、代わりに俺が付けた。勝手に傷を付けられた罰だ」
「…へぇ、」痛みにあえぎながら裕也は不敵に笑んだ。「まるでおれがあんたのものみたいな物言いだな」

 無表情だった狐空の口端が上がる。
「お前、俺に惚れてんだろ?」
「うん」
「じゃあ、俺の言うこと聞けよ。ひとつ目は、うずまきナルトと関わらないこと。ふたつ目は、勝手に誰かに傷付けられないこと」
 裕也は苦笑する。
「あんたはお子様だな。惚れたからって何でも言うこと聞く、ってわけじゃありませんよ、狐空さん?」
 イラッとした様子の狐空を見て、裕也はまた苦笑した。

 しかしすぐに裕也は真顔になった。いつも笑顔を載せている彼にしてはとても珍しい。
 そして、己のあごにかけられた狐空の手を掴み、それを少し上にずらし、口元に持っていく。
 ゆっくりと。
 見せ付けるように、
 狐空の手に口づけを落とす。
 ただの軽い接吻なのに、かなり官能的な色を帯びている。狐空の手に裕也の柔らかな唇が触れる。
 上目遣いに、挑発げな視線を投げかけながら。
「おれはおれのやり方であんたを愛する。」
 あんたは愛されることに慣れてないみたいだからなかなか受け入れられないと思うけど、おれ、勝手にやりますから。
 そう言ってヘラリと笑った裕也は、しかし、間もなく、操り人形の糸がプツリと切れたように、そのままその場に崩れるように倒れた。意識を失う。
 ひと一人倒れたドサリという音が、地下牢全体に響いた。


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不思議なチカラ使ったから、身体が堪えられなくて気絶、みたいな設定です。後で書くつもりですが

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