「 6 狐空に連れられて 」

 ナルトの瞬身の術(というらしい)によって連れてこられたところは、さっきと変わらないところだった。
 石造りの、じめじめして冷えた地下牢。空気が冷たい。こびりついた乾いた血の、鉄臭いニオイ。湿っぽい風が裕也の頬を撫でた。
 しかし、見た目はさっきと全く変わらない所だが、なんとなく気配が違う。
 
「…これは、あんたの結界の中ですね」

 狐空に腕を引かれながらそう言うと、
 狐空は振り返らないまま返事した。

「分かるか?」
「うん。以前あなたの結界に入れられたことがありましたね。森の中で。その時の感覚と同じですから」
「そうか」

 クルリ、と、狐空は振り向いた。
 ここに来て初めて目が合った。
 面の穴から覗く、空色の瞳。
 裕也は手を伸ばし、狐空の暗部面に手をかけた。狐空は抵抗しなかった。そのまま、面を外す。金色の前髪がサラサラと音を立てる。
 青く大きな目。長い睫毛。日光を嫌うような、白い肌。(表の顔の時は健康的な肌の色だが、きっとあれはわざとそうやって変化しているのだろう。)
 隠されていた、美麗な顔があらわになった。

 やっぱりきれいな顔だなあ、と、ぽぅっと見つめていたら、
 狐空のほうもこちらの顔を真顔でジッと見ていることに気付いた。
 裕也は笑顔をつくる。
「なんですか? おれに見惚れてるの?」

 答えぬまま、狐空も裕也の顔に手を伸ばしてきた。
 狐空の白魚のようなきれいな手が、裕也の頬を撫でた。痛みに裕也は顔をしかめる。
 冷たい指が、熱い頬に触れる。
 ちょうどイビキに殴られ、痛々しく紫色に腫れている場所。裕也の顔がなまじ整っているだけに、その痣は余計に痛々しく見えた。

 狐空はそこを黙って見つめるまま、目を細めた。
 低い声。
「この痕は、あの男につけられたものか」
 ヘラリと答える。「そうですよ」
 無表情のまま、狐空は唇を噛んだ。低い声。
「…勝手に手を出されるな。不愉快だ」

 瞬間、裕也は、頬の痛みが引いてゆくのが分かった。
 ちょうど狐空が手をあてているあたりから、柔らかい光が漏れ、どんどん熱と痛みが消えてゆく。

 暗鬱とした地下牢の中で、やわらかな光に照らされる狐空は、綺麗過ぎて、世界と切り離された存在のように見える。
 きらきらと金の髪が光を反射する。サファイアのような瞳が光をうつす。

 しばらくしたら、完全に腫れが引いた。痛みも無い。
 狐空の手が離れてから、裕也は自分で頬を触り、確認してみる。うん。何もない。
 すっかり元通りきれいになった顔に微笑をのせる。「ありがとうございます、狐空さん。相変わらずすごいですね、完全に消えてしまいました。あなたに治してもらったのは2度目ですね」

 すると、狐空の瞳が揺れた。
「…同じく、うずまきナルトのせいで、怪我を負ったのも、2度目だ」
「あいつのせいじゃありませんよ」
「もううずまきナルトとつるむのはやめろ。目障りだ。」声が低くなる。「殺すぞ。」

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