「 2 」

 おかしいなぁ。俺は、一介の高校生をやっていたはずなのに。

 などと軽く現実逃避している裕也は、現在戦闘中である。
 見知らぬ森のど真ん中で、10人の男たちを相手に戦っている。

 黒衣装の男達の攻撃を、最小限の動作で避け、隙をついて腹にパンチをくらわせる。急所を的確についた攻撃。唸りながら倒れた男は、3人目。あと7人。裕也はその男の刀を失敬し、また戦闘に臨んだ。

 裕也は刀の使い方がうまかった。過去に、必要にかられて剣術を習得したのがよかった。まさかこんなところで役に立つとは思わなかったが。

 などと、剣をマスターしている時点で既に『一介の高校生』ではないことを、裕也は敢えて無視していた。

 刀を得た裕也は、たちまち強くなった。襲い掛かる男達を次々と斬り倒し、残り3人となる。「けっこう、きついな……、」と息を少し乱しながらぼやく。

 どうも、相手は戦いに慣れている。むしろ戦いが本業だといわんばかりに。


 と、ここで、信じられない事態が起こった。


「一般人だから手加減してやれば、調子にのりやがって!」


 一人がそう叫び、瞬時に手を動かし始めた。
 ――なんだ? なにかの印を組んでいる?
 不審に思い、振り返った裕也の目の前で、それは起こった。


「火遁! 豪火球の術!」


 ゴオッと火の球が飛んでくる。

これは、何事だろうか。

 男が、火を吐いた。なんと火を噴きやがった。

 ――おいおい、冗談じゃねぇぜ。

 唖然とした裕也は、それでも持ち前の反射神経で軽く避ける。凄まじい熱を持った物体が髪を掠める。その明るい茶髪の毛先が焦げた。本物の火だったらしい。

 一気に裕也の勝算は薄れた。多分自分は超人を相手にしているのだ。


「これは……すげぇな。俺、死んじゃうかも」


 ヘラリと笑う。
 内心の動揺とは裏腹に、余裕の笑みを浮かべてしまうのは、裕也のやっかいなクセであった。相手を挑発するような行為だ。
 予想通り、黒服の男達3人の目は血走った。そして彼等はまた何かの印を組み始める。全員が。
 ――次は何? 吹雪とか? マジで内海君死んじゃうから! 俺あんな超人技防げないから!

 裕也は混乱していた。しかし、どこか冷静だった。どうせ俺は、3人一遍は避けられない。だから、せめてこの小屋が巻き添えを喰らわないようにしないと。そう考えた。
 地を蹴る。
 小屋から離れる。
 男達が口を開く。術が放たれる。
 「姫さん、いまのうちに逃げろ!」裕也が叫ぶ。
 三方向から、火やら氷やらが放たれた。すべてが裕也に向かってくる。空でも飛べないかぎり、逃げるのは無理だった。
 静かに目をつぶる。
 学園にいる友人の顔を思い浮かべる。
 ――最期に、あいつらの顔、見たかったかな。


「まっ、30点ってとこかな」


 ふと、耳元で落ち着いた声がした。

 ほどよい低音の、青年の声。

 ハッと裕也は目を見開いた。全く気配を感じさせずに己の背後に回ったその声の主を確認するためだ。しかし彼の目に真っ先にうつったものは、血を大量に噴き出しながら絶命する、あの黒服の男達だった。

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