いつもなら研究や実験に必要なものは誰か適当な奴に頼んで買いに行かせたり取りに行かせたりしている私ですが、今回はどーしても!自分で直接買いたいものがあったもので、久しぶりにお外に出掛けてきました!
必要な物だけ買って、寄り道せずにさっさと美食會本部に戻ってきた。扉を閉めて目の前に広がる研究室の不気味な風景と湿っぽく薄暗い空気に、はぁと一息ついた。
久しぶりの外は地獄のようだった。太陽と青空、そして人々の笑顔が眩しいったらありゃしない。窓のない研究室に引き籠ってばかりの私には目が眩むものばかり溢れかえってた。そういえば外に出たのはいつぶりだろう?……ううん、美食會に来たときかな?それ以降はずっと本部に居座ってるような気がする。
片手にぶら下げていた袋を机の上に乗せる。袋の中身を机の上にぶちまけると、途端に鼻を刺す臭いが襲い掛かってきた。その匂いの元である緑色のジグザグとした葉を摘み、電灯にかざす。


「スパークハーブか」
「うぉわっ!!?」


ハーブを放り投げ、声のした方を振り向く。
いつもと変わらず素敵なボディのエルグ様が、少し離れた場所に立っていた。


「え、エルグ様いらっしゃったんですね……」


流石に実験中じゃないんだから、私の後に入ってきたら扉の音で気付く。それがなかったということは、エルグ様は私が帰ってくるよりも先にこの研究室にいらっしゃったというわけだ。何てお方だ。


「さっきからいた。何故気付かない」
「丁度死角になってたので…申し訳ありません」


視界を覆うゴーグルに触れる。さっきの位置だと、エルグ様の姿が丁度ゴーグルの縁に被さってしまったのだ。それで全く私は気付かなかったというわけで。いやぁ情けない。


「そのゴーグル、外したらどうだ。無駄に視界を狭めるだけだろう」
「えっ嫌ですよ、これはエルグ様のお顔に巻かれている包帯と同じくらい大事な役目を担ってるんですから!」


エルグ様が頑として取らなかった包帯と同じくらい、私はこのゴーグルを外しませんよ!
腕でバッテンを作りアピールすると、セクシーなため息を吐く音が聞こえてきた。


「まぁいい……で、貴様が買ってきたのはそれか」
「あ、はい。エルグ様の仰られた通り、スパークハーブです」


スパークハーブ。まるで全身を貫く稲妻のような刺激臭を放つことからそう名前を付けられた植物だ。これの臭いを嗅ぐだけで眠気は吹っ飛び、丸一日不眠不休でいられるという優れもの。葉を食べれば疲れ知らずの体になり、一ヵ月は余裕で不眠不休で働けるどころか、細胞が限界を超えて200%の能力を発揮できるとか。立派なドーピング植物で、グルメ法では利用を制限されている。だが、実際にこの葉を食べる人間はそうはいない。何故なら副作用があるからだ。稲妻に打たれた体は細胞が焦げてしまうように、スパークハーブを直接摂取した体は一ヵ月を過ぎる前に焼け爛れてしまう。名前の由来の多くは此方にある。そのため誰も直に摂取しようとはしない。そもそも旨いもんでもないし。
それでも私はこいつがどうしても欲しかったので、頑張って闇市で購入してきた。


「貴様が外に出てまで買う必要があったのか?」
「う〜ん、まぁ説明するより見た方が早いですよね。これ見てください」


机に放りだされたスパークハーブを再び掴み、電灯にかざす。エルグ様がそれを見ることができる距離まで近付く。
電灯に透かされたスパークハーブの中を、キラキラと輝く金色の粒が巡っているのが見える。


「綺麗でしょう?これはですね、電流の粒なんですよ。これが多いほどスパークハーブの効果が大きいんです。でも普通に出回ってるのはこれが殆どない、成熟しきったものなんですよ。スパークハーブは種の中に大量の電気を蓄えていて、それを栄養として成長します。つまり、成長すればするほど電気は消費され、効果が薄まっていきます。殆どの人は全ての物が成熟するともっとよくなると思ってますからねぇ。苦労しましたよ、若葉のスパークハーブを手に入れるのは」


そのことを説明すれば他の連中も納得してくれるだろうけど、態々説明するのも億劫だ。それに自分で確認した方が確実だから、こうして自ら買い出しに行ったのだ。
エルグ様も初耳のようで、少し感心したように相槌を打った。幸せ!


「これも実験に使うのか」
「ん、はい……ああ!エルグ様には使いませんよ。どうせ効かないでしょう?」


結果なんて火を見るより明らかだ。既に何百ボルトもの電流に耐えたエルグ様が、今更スパークハーブを摂取した所で成果の程は期待できない。それよりドーピング薬として調合したいのだ。下っ端や灰汁獣とかに使うような、安全面を考慮して且つ倍の効果を持つような薬を。そうしたら酷使できる手足が増え、美食會に多大な利益をもたらすことだろう。


「……そうか、邪魔したな」
「っえ?いえいえい全然邪魔ではないのでまだ此処にいらっしゃ」


引き止める声は、扉が閉まる音にかき消された。



……そういえばあの人、何しに来たんだろ?


の証



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