頻繁にとはいかないが、暇があればこの悪趣味な研究室へ足を運ぶようになった。理由は自分でも分からない。ただ、退屈だと感じた時自然に足が向かう場所がここなのだ。それ以上の理由はない。不思議にもロッソも、私が研究以外の用で訪れることに対して何も言ってこない。だが態度はあからさまに上機嫌だ。喧しいことこの上ないが、最近はその喧しさにやっと慣れてきた。



「……外さないのか」
「ん、何がですかー?」
「ゴーグルだ」


建前上目の擁護のためだと銘打っていたが、実際の目的は異常な色の目を隠すためだ。拒絶を象徴するソレを目の前で付けられるのは、正直いい気分ではない。私はその目を受け入れたのだから、この場では必要ないのだから取ればいいのではないか。


「では逆に聞きますけど、エルグ様は包帯とらないんですか?」
「……」
「結構前にも言いましたが、エルグ様のお顔をオカズに白米三杯は余裕ですよ。貴方の素顔を見た今も、その気持ちは変わりません」


それは寧ろ変えろ。


「例えエルグ様がこの目を受け入れて下さったとしても、このゴーグルは外しません。だって肝心の私自身が嫌いなんですもん。自分が嫌いな部分をどうして自ら晒すでしょうか?貴方もそうでしょう、エルグ様」


その通りだった。包帯の下に隠した自らの醜い顔。例えロッソのあの気色悪い言葉が本心だとしても、到底晒す気にはなれない。その理由が、包帯を取るのが面倒などといった下らないものではないのは明らかだ。


「私もエルグ様も、別に隠したままでもいいじゃないですか。世界中のみーんなが醜い所を隠して取り繕って生きてるんですから」


私達だけではない。それはそうだろう。誰にしも醜い所があり、それを他人に気付かれないように隠している。それは小さなものもあれば、私達のようにどうしようもないものもある。



「私も別に、貴様の目は好いてはいない」
「でしょうね。それは全く考えちゃいませんよ」


だが私は、奴の目を受け入れたいとは思っている。気持ち悪いと嫌悪していながら、あの一度だけ見た目の色に心を奪われたのだ。あれから何度も人を切り裂いてみたが、どの血も違う。同じ血の色であるはずなのに、そうだと感じたはずなのに同じものが見つからなかった。




「でも私、エルグ様の醜いお顔も引っ括めて愛してますよ」


何度も聞いた、下らない愛の言葉。戯れ事と思っていた言葉は、今では別の意味を含んでいるように聴こえた。こいつの言う「愛」は辞書に記載されている意味とは違う、もっと薄汚いものなのではないだろうか。

それでも嬉しいと感じたのは、気のせいだと思いたい。


透明な拒絶



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