∴ ライブベアラーと男前の子C 「もしも私が死んだら、記憶を貰ってくれないか?」 お茶でも飲まないか、そんな誘いのように軽く発せられた言葉の意味を理解するのに数秒かかった。聞き間違えたのかしら? 「……は?」 「いや、ライブベアラーにとっては私の記憶なんてこれっぽっちも価値がないだろう。今まで食べてきたものなんてたかが知れてるし、唯一威張れるものといったら君の料理だ」 「ちょ、ちょっと待って。貴女何を言ってるの?」 「何を、とは?」 「突然記憶をどうのなんて、何かあったの?」 まるで死ぬ予定でもあるかのように。 私の年齢は彼女より10も上。そして一般的には女性のほうが長生きされると言われている。その理屈から考えると、私が先に死ぬのが普通だわ。それなのに、彼女が発した言葉は彼女が先に死ぬことを前提とした内容だった。 「……実は、近々マッチさん率いるグルメヤクザと共に、近隣で違法食材を横流ししている連中と戦争することになってな。普段は何かと理由をつけて遠ざけている私にまで声をかけるとなると、余程危険なんだろう。だから私も覚悟をしないとな、と」 心当たりがある。確かに最近、マッチ達の様子がピリピリしていた。カジノにもあまり来なくなってたから多忙なのかと思ってたけど。 別に組同士の争いはどうでもいい。そんなの当たり前の出来事だから。でも#name#がそれに参加、しかも死ぬ危険があるとなると黙っていられない。#name#が殺される?それだったら私が参加するわよ。それがいいわ! 「ねぇ、私も参加しちゃだ」 「駄目だ」 ……最後まで言わせてもくれないのね。 「ライブベアラーは多忙だろう?それにグルメヤクザではないのに巻き込むわけにはいかない。マッチさんが切羽詰まっていてもお前に協力を求めなかったのはそういうことだ」 彼も律儀な所があるから、きっとそうね。流石マッチに育てられただけあって思考はそっくりだわ。はいそうですかと引き下がるのは嫌。でも、彼女の信念が揺るがないのもまた事実。 「……ねぇ、貴女が優しくて行動力があるのは知ってるわ。別に悪いことじゃないわ、私はそんな貴女が好きだから。でもね、死んだらって前提で話をしないでちょうだい!そんな話するくらいなら、まだプロポーズのほうがいいわ。それだったら私だって笑って見送るわよ」 彼女の実力を、私やマッチは高評価している。だからこそマッチは彼女の力を信じてこうして頼ったのに、遺言を私に言ってくるなんてあんまりよ。寂しいこと言わないで。それでもし本当に死んじゃったらどうすればいいのよ。 「……そうか、そうだな。すまない、演技の悪いことを言ってしまって……お前に心配をかけさせるつもりはなかったんだ」 「分かってくれたらいいわ。お願いだから、生きて帰ってきてちょうだい」 「分かった、頑張るよ」 ああ、彼女が素直でよかった!単なる言葉だけど、彼女から言われると何だか安心する。 「ならライブベアラー、私が無事に帰ってこれたら結婚してくれないか?」 確かに良いとは言ったけど フ ラ グ を 建 て る な それでも死亡フラグを見事にへし折って、彼女は無傷で帰ってきた。 ----------------------- こいつら結婚した ← (top) → |