チョコバーと魔法の花 3

 びっくりして振り返ると母さんがいた。

「な、んで……?」
「なんでって……それよりあんた、なに泣いてるの?
 まさか学校でいじめられてるの?」
「……違うよ」
「いいのよ我慢しなくて。
 ほら、母さんに言ってごらん」
「我慢なんかしてないって!」

 母さんが溜め息をついた。

「いいわ。
 どっちにしろ今の学校には行かなくてよくなるから、もう大丈夫よ」
「……どういうこと」

 母さんがピアスを外しながら言った。

「仕事辞めてきたの。
 実家に帰ろうと思って」

 一瞬目の前が真っ白になって、次の瞬間には怒りで震えていた。
 頭を思いっきりバットで殴られた気分だった。
 なんて勝手なんだろう。どうしてそんなことするんだろう。いつだって俺のことなんか分かってないんだ!

「……ごめん」

 箸を折りそうになるくらい握りしめた俺に、母さんはふと眉を下げながら微笑んだ。

「ハヤトには一番迷惑かけたね。いつもひとりにしてて、本当にごめん。
 実を言うとね、母さん寂しかったのよ。あんたのためならどんな仕事でもやってやるって腹くくって頑張ってきたけど……やっぱ一緒にいられないのは耐えらんないわ。一緒に楽しく生活するために仕事してんのに、結局離れ離れなんじゃあ、本末転倒な気がしてね。
 こんな勝手なこと、あんたに言うことじゃないって分かってるけど……言わせてよ。

 あたし、あんたのこと、世界で一番好きだから。
 これからは一緒にごはん食べようね。そうだ、休みには映画に行ってもいい」

 母さんのシワ一つない手が俺の頭を撫でた。

「一緒に、来てくれるよね?」

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