「えーっと……」
随分下の方から此方を見上げている女の子は、右目に眼帯をしていた。
「骸様に用があるの?」 「骸様?」
年齢にそぐわない言葉遣いで話しかけてくるその子に戸惑いつつも、今し方発せられた『骸様』というのが気になり、その名前を復唱しながら首を傾げる。
「だって今、見ていたわ」 「見てたって……」 「――凪!」
突然声が響き、素早い動作で女の子――凪と言うらしい――が抱き上げられた。それを呆然としながら見ていると、「ちょっと!」と怒気の含まれた声色で怒鳴られた。
「何してたんですか、警察呼びますよ」 「ちょ、誤解だって!」
自分の目の前で眉を吊り上げているのは先程珍しいと思った男の保育士だ。長身に整った顔立ちの男がエプロンを身につけているのは何ともミスマッチである。此方を睨みつけてくる瞳は左右の色が違い、それを純粋に綺麗だと思った。 しかし呑気にそんな事を考えている場合ではない。完璧に不審者と間違えられているこの状況を打破しなくてはならない。
「何が違うんです? 平日のこんな真っ昼間からそんな格好で……」 「あー、いや、あの」
さらに眉間のシワを深くしたのを見て、ああこれは本当に通報されてしまうかもしれないと思った。そんな事になったら正チャンに何て言われるか、なんて想像に容易い。
「凪、何か変な事されませんでしたか?」 「だから誤解だって!」 「骸様、この人、骸様の事を見ていたわ」
腕に抱かれたまま女の子は言った。それを聞いた男は凪から視線を逸らし、柵越しに立っている男に顔を向けた。
「……僕を?」
【B】へ続く
2011.06.29 (Wed) 20:09
back
prev|top|next
|