デスクワークは酷く退屈である。白蘭は大きく伸びをしながら、日差しが照りつけるアスファルトの上を歩いていた。 多くの社員を抱えている会社の社長なんて地位に就いてはいるが、ずっと座って書類整理に追われるのは出来るだけ回避したいというのが本音だ。大規模な企業と言うのは優秀な人材も多く集まる。自分がやらなくても良く出来る秘書が仕事をしてくれるので――腹痛に耐えながらではあるが――自分は今、こうして外を出歩いていられるのだ。
今日はどこへ行こうかと、会社に残された部下が聞いたら発狂でもしそうな事を考えながら視線を巡らせていると、視界の端に滑り台を見つけた。 ――保育園。こんな所にあったのか。 そちらに視線を向けると、大きくも小さくもない保育園があった。普段はあまり通らない道なので、こんな場所に保育園があるなんて知らなかった。何となく興味が湧いて注意深く目を向ける。園内には滑り台や砂場やジャングルジムなどが置かれており、園児達は世の中の汚い部分は一つも知らないような笑顔で無邪気に走り回っていた。 ふと、巡らせていた視線が一人の人物を捉える。女性ばかりの保育士達の中に一人だけ、男の姿が混じっていたのだ。最近では珍しくもないのだろうが、何故だかその姿が気になって仕方がなかった。 男は長い濃紺の髪を一つに束ねていて、陽の光に透けるその色がとても綺麗だった。
「なにしてるの?」 「……へ?」
突然発せられた声に驚きつつ辺りを見渡したが、声の主は見当たらない。
「こっち……」
再度聞こえてきた声にまさかと思いながら下を見ると、柵の内側に小さな女の子が立っていた。
【A】へ続く
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2011.06.28 (Tue) 23:58
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