-SIDE ギゼル-
盤上を見事に覆したファールーシュ王子を見る。
甘さを捨て、政務者として、王としての器を見せる彼こそまさにファレナの王。
父の計画に乗って最愛の人を手に入れられれば良いと思っていた。
その際に誰が踏み台になろうと私の良心は少しも痛むことは無い。
今でもそうだ。
幼き妻であったリムスレーア女王陛下は、目の前にいる実兄のファールーシュ王子殿下によって討たれたと聞く。
殊の外、家族を妹を溺愛していたあの少年は、全てを切り捨てて此処まで登り詰めた。
「ファールーシュ殿下、まさか貴方が我妻を討つとは思いませんでしたよ。」
えぇ、本当に…
この誤算が無ければ、麗しい彼女が手に入ったかもしれないのに…と悔しく思った。
「ブレーンは彼女ですか?」
ファールーシュ殿下の少し後ろで控えている少女を見やる。
臆する事無く真っ直ぐと見つめ返された視線の先は無。
少女を庇うように立つファールーシュ殿下に私は笑った。
とても羨ましい。
もう私には出来ない事だからだ。
「天意がどちらにあるのか勝負しましょう。」
スラリと抜いた剣に殿下も三節棍を構える。
ファールーシュ殿下を止めない事に私は控えている少女の考えが解ってしまった。
少女は、ゴドウィンの象徴である私を踏み台にする事でファレナの発展を目指すのだろう。
誰の幸せを追い求めたのかと聞かれれば、私は迷わずに答えよう。
自分の為だった…と。
男は幻想を追い求めて走り続け迷宮に入り込んだまま還らぬ人となった。
-SIDE サイアリーズ-
全ては甥のファールーシュの為…
否、ファレナという国に住む民の為だったんだろうね。
エイコはファールーシュを導いてくれた。
別の世界で君臨する彼女が、ファールーシュと共にファレナに変革を齎してくれる事だろう。
あぁ、でも…可愛い甥のファールーシュが血に濡れ業の道を歩まねばならなかったのかと思うとやるせない気持ちになった。
正(まさ)しくファレナ王家の玉座は血塗れの王座なのだ。
太陽の紋章がファレナに留める鎖なら、黎明と黄昏の紋章は重石なのだろう。
「さーて、私も仕事しなきゃーね。」
グっと背を伸ばし、私はファールーシュとエイコが待つ王宮へ向かった。
ファレナが一望できる丘に元婚約者が眠る小さな墓標が佇んでいる。
願ったのは、国の為だったのに何処で道を違えてしまったのか…
もう、君の声を聞く事は出来やしないけれども……
- 17 -
前 次