-SIDE エイコ-
極悪非道?
何とでも!
軍師とはね、手を汚す者なんだよ。
軍主とはね、綺麗な希望で在り続けなくてはならない者なんだよ。
だから私が殺すの。
と謂うのは建前で、本音は私は私を知らない場所で易々と死にたくないのよね。
だって折角肉体を貰ったんだもの。
好き勝手に生きていたいじゃない?
傍若無人だと罵られ様と、悪逆非道と指差されようともね!
私にとっては最上級の褒め言葉さ。
まぁ、本当は死人なんだけどね。
「天意は我等に有り!赦すな、傀儡の王女を!ファレナに住まう民の禍の凶であるゴドウィンを!打ち倒すぞ!」
失意と悲しみと苦しさと孤独を隠して鼓舞するファールーシュ王子を見て私は勝利を確信した。
民の心は完全にファールーシュ王子に向けられている。
自分の思い通りにならないと『不敬罪』『殺せ』と喚く傀儡のリムスレーア女王陛下とは雲泥の差でしょう?
命の重みを知らぬ幼い女王よりも賢君の片鱗を魅せるファールーシュ王子の方にファレナの未来が視えたでしょう?
新王女様が率いる兵達は、徐々にファールーシュ王子の軍によって制圧されていく。
青は新女王軍、赤は新黎明騎士団。
戦場は大きなチェス盤。
私は最後の指示を出した。
さぁ、私の出番かな?
-SIDE ファールーシュ-
何を目指したのか…
あの日、全てを奪還出来ると信じていた。
でも現実は厳しくて、民と家族のどちらかを捨てなければならないとエイコによって気付かされた。
いつだって逃げ道を用意してくれている彼女は、僕がリムを選んだとしても何も言わなかっただろう。
だけどエイコが黄昏の紋章を宿した時、どこか僕はホッとしたんだ。
だって退路(逃げ道)が無くなったんだから!
きっと太陽の紋章は僕をエイコを求めるだろう。
ごめんね、エイコ…
僕は君を故郷に帰すつもりはないんだ。
「あ、兄上?」
大きな瞳に涙を浮かべ驚愕な表情で僕を見るリム。
愚かで可愛い僕の妹。
「傀儡の女王、リムスレーア・ファレナス。」
勤めて冷淡に言葉を紡ぐ僕に
「何故じゃ!何故、兄上がわらわに刃を向ける?」
泣き喚く幼子。
「ファレナ女王国は、お前の血で終焉(おわ)りを告げ、ファールーシュ・ファレナスの名で始まりを語る。」
エイコ、君が僕の為に未来(みち)を作ってくれた事に僕は感謝した。
それと同時に成し遂げなくてはならないと決意する。
「嘘、うそ、ウソ!!わらわは信じぬぞ!!」
頭を振り駄々を捏ねるリムに
「民を虐げ、亡き父と母の無念を晴らす事もせず、王として起つわけでもなくゴドウィンの傀儡となった罪、此処で償って貰う。」
僕は剣を向けた。
母の形見である三節棍でないのは、せめてもの僕の慈悲。
悲しい、哀しい、最愛の妹の悲鳴は僕には届かない。
真っ赤に濡れた剣は、リムの胸を貫いた。
新黎明軍は勝利に歓喜し、新女王軍は女王の死に失意する。
これで満足か?
太陽の紋章よ…
血が血で洗う我がファレナ女王家の末裔が視せた茶番は面白かったか?
太陽の紋章よ…
僕がお前の主となる。
だから王宮の奥で待っていろ。
太陽の紋章よ…
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